あとは明日の儀式で、好みの男が顕現するように祈るだけだ。

「その前に」

大量の鍵が散らばった部屋の中を見渡す。
これを片付けなければ。



午後からは年越しの儀の準備で忙しかった。
なにしろ国の一大行事、そこで奉納の舞を踊らなければならない。
しかもマスメディアのカメラが何台も入って全国……どころか世界中に中継されるとなると失敗は許されないのだ。
なんでこんな面倒なことをとは思うが、この神祇(じんぎ)家に生まれた運命を呪うしかない。

我が神祇家は遙か昔からこの国に降りかかる〝穢れ〟を祓ってきた。
人の負の感情が集まり、それは実体を持って現れる。
穢れは災害や疫病をまき散らすので、早期に祓わなければならない。
その役割を担ってきたのが神祇家の女たちなのだ。

神事は神祇家併設の……というよりも、神社に神祇家が併設されているというのが正しい。
その神社でおこなわれる。

「翠、準備はいいかい」

「はい」

祖母に声をかけられて顔を上げた。
幕の向こうでは参列者が私たちの登場を待っている。
参列しているのは総理大臣など国のお偉方だ。