祖母に口もとを捻りあげられた伶龍が悲鳴を上げ、威宗も私も笑っていた。

「けれど光恵様。
光恵様はまだまだお元気です。
引退などと淋しいことを言わないでください」

笑い終わった威宗が、真面目な顔で進言する。

「そうだよ、まだいろいろ教えてもらわないといけないんだしさ。
引退とか言わないでよ」

祖母はすでに還暦を過ぎている。
まだしばらくは大丈夫だが、そろそろこの先を考え始めておかなければならない。
それでも私は巫女になって一年も経たない駆け出しで、頼りない部分も学ばなければならないことも多い。
祖母に引退なんてされては困るのだ。

「……そうですよ。
光恵様がいなくなったら、誰がこの跳ねっ返りの刀と巫女を制御するのですか」

「ひっ」

いつの間にか混ざっていた柴倉さんに暗ーく言われ、思わず飛び上がっていた。



祖母は引退こそしなかったが、これからは極力現場には出ないらしい。

「言っただろ、もう飛んだり跳ねたりは私には無理だって」

祖母は物憂げにため息をついてみせたが、今朝、お供えのお菓子を強奪していく伶龍を怒鳴って追いかけていたのは誰だ?