数日後の午後、学園中庭の並木道。
秋の木漏れ日が揺れ、落ち葉が静かに風に舞っていた。

その中央、シュヴァリエはひとりでベンチに座っていた。
制服は整っていたが、その背中には、かつての完璧な仮面はもう見えなかった。

アルテミスが現れた。
その後ろには、リベルタ、セレネ、ティリット。誰も声はかけず、ただ静かに向かい合う。

シュヴァリエは、ゆっくりと顔を上げた。

「来てくれたんだね」

アルテミスは頷く。

「あなたにEのことを問いただすためじゃない。あなたが、これから何を選ぶのかを見届けに来たの」

シュヴァリエは少し微笑んだ。だがそれは、初めて見せる本当の顔だった。

「罪は消えない。推薦人を脅し、生徒を扇動し、リリアンを利用したことは、間違いなく悪だ」

ティリットが言った。

「だけど、君は途中で止まった。フィオナを切り捨てなかった。その選択は、君自身のものだ」

セレネも小さく微笑む。

「心があるうちに、止まった人間にしかできない償いがあるわ。それに、声を持たない者の痛みを理解できるのは、あなたしかいない」

リベルタが最後に言葉を投げかけた。

「お前がEを降りるのなら、その名前を捨てて、自分の名で歩け」

シュヴァリエは一度だけ目を閉じ、そして小さな声で告げた。

「退学届を出した、選挙を混乱させた責任は逃れられない。でも、罰を受けたからといって、僕は償ったことにはならない」

一同が息を飲む。

シュヴァリエは、少し空を見上げて言った。

「だから僕はもう一度、声を持たない者のために立ち上がるよ。今度は仮面じゃなく、自分自身という名前で」

その言葉に、アルテミスは目を細めて答える。

「それが、あなたの選んだ償いなのね」

「あぁ。Eはもういない。これからはただの、シュヴァリエ・レンリーとして」

シュヴァリエは立ち上がると、深く一礼した。

「ありがとう。仮面を剥がしてくれて。僕はあなたたちに負けて、本当によかったと思ってる」

風が吹いた。木々が揺れ、葉が舞う。

別れの言葉はなかった。ただ、四人と一人は静かに頷き合い、別々の道を歩き出した。

その背中には、もう仮面はない。
あるのはただ、未来へ進む決意だけだった。