シュヴァリエの目が、わずかに揺れる。
だが彼は動じず、逆に一歩踏み込む。

「真実は、誰が決めるのかな?君?それとも、投票するこの生徒たち?」

アルテミスは静かに言った。

「私は決める側じゃない。問う側よ。皆に、自分で選んでほしい」

アルテミスは壇上から、全生徒の方を見渡す。

「皆、自分の声を持っている。小さい声かもしれない。けど、それは誰にも奪われていいものじゃないわ」

会場の空気が変わった。

シュヴァリエの笑顔が、初めてわずかに人間の表情に崩れた。

「君は正義を気取ってる。でも、理想だけで世界は動かない」

「ええ。理想だけでは勝てない。けれど」

アルテミスが一歩、前へ。

「恐れで支配する世界より、希望で進む世界を私は選ぶ」

沈黙が落ちた。

その言葉が、ホールの天井にまで届くような静けさの中、ある一人の生徒が立ち上がる。

それは――フィオナだった。
彼女は、迷いのない声で叫んだ。

「私は脅された! シュヴァリエ・レンリーに!」

どよめきが、地鳴りのように広がった。

他の推薦人も、次々と立ち上がる。

「推薦辞退、私も強制されました!」

「写真を撮られ、脅されました…!」

壇上で、シュヴァリエの顔から笑顔が失われていく。

「……ふふ……ふふふ……」

震える肩から、低く、乾いた笑いが漏れた。

「結局、こうなるんだね。皆、僕のいない世界を選ぶ」

その目には、誰にも理解できない孤独と怒りが宿っていた。

「僕がどれほど整えてきたか、君たちに分かるかい? 混沌に沈まないように、世界を正そうとしたのに……!」

アルテミスは近づいて、そっと言った。

「誰も、あなたを否定していない。でも、あなたのやり方を選びたくないの」

そして――シュヴァリエは崩れるように座り込んだ。