社会では色々な側面から自分が見られている。

誰かが大丈夫なら自分も大丈夫だ、とは到底思えない。
何の慰めにもなりはしない。

大人になることへの恐怖心が拭えるわけではない。

『自分と周りは違う。』

その考えが安心ではなく不安に変わる人がいることを知って言うのなら最悪の言葉としてしか届かない。

水道水が一滴顎から流れる。
指先は赤くなり、じゃんけんのグーパーを繰り返すとぎこちなく両手が動いた。

スカートのポケットから灰色のハンカチを出して顔と手を拭く。
ハンカチの方が温かく、フワフワしていて家の布団が恋しくなった。

気の落ち着く布団の中では他の場所よりもより深く考えごとに耽ることができる。
涙を流すことも自然とできるし、誰にも邪魔されたくない時は布団の中が一番だ。

でも、今は学校でまだ二時間目。
私はハンカチをポケットにしまって教室へ戻る。

途中出席番号が二つ後ろの女の子に「大丈夫?」と小声で言われてビクッと異常な反応をしてから小さく頷いた。

席に戻ってダメだなぁと思った。

私はもっと人と触れ合うべきなのだけれど、会話の広げ方が分からないので一瞬で話は終わる。
上手く声や言葉が出てこなくなるし、酷ければ息が上手くできなくなり動かしたいなんて思っていないのに手や顔が勝手に動くこともある。

今までも試みたが、どれも変な空気で会話が終わった。
そもそもが会話といえるものでもなかった。

四回ほど同じことを繰り返して以来、会話を避けている。

まるで一匹狼だ。
強そうでいて実は弱いから群れから外された一匹狼は親近感が湧く。

自分の駄目な部分ばかり見つけてはこのままではいけないと焦り不安が募り、向き合おうとしても結局折れて逃げてしまう私。
弱い狼は一人で生きていこうと奮闘しているのに私は逃げてばかりの駄目な人間だ。

人として、人と生きていくための必要なものが抜け落ちている。

狼でなくとも群れと逸れた生き物は最悪見捨てられて独りで死んでいく個体だって少なくない。
私はどこかで生きられなくなり、早死にするのだ。
群れと逸れた野生動物が食べ物を得られなくって餓死するように。

保育園児の時に見たサバンナで生きる野生動物たちの映像の一部が頭を流れた。
独りで広いサバンナにいる動物達を可哀想などと嘆いていたあの頃の私に言うならば「次は私の番だよ」だろうか。

そう思うと、私は集団で生きる人間よりも独りで生きられる動物の方が生きやすかったのかな。