眠いのか、ただ単に気が緩んでいるのか。
どちらにせよ、このままでは前で眉間に皺を寄せる彼の炎に薪を追加することになるし、私の成績も悪い方向へ向いてしまう。
それだけは避けなければいけない。

「すみません。以後気をつけます。あと……あの、目を覚ますために顔洗ってきてもいいですか」
「それでこの授業を受けれるのならどうぞ」

『よくも先生を怒らせてくれたな』とでも言いたげなクラスメイトの視線が痛く、逃げるようにして教室を出て水道水を頬につける。

私だって彼の授業がつまらなくて外を見ていたわけではない。
眠気もなく意識もしっかりあったのならちゃんと聞いていたい内容だった。
それが、ほんの少し意識が飛んでいただけで冷ややかな目を向けられるのは心外だ。

皆だって教科書やノートに落書きぐらいするだろう。
それと同じようなことなのに何故あんなじと目を向けられなければいけない。

ひんやりとした水に鳥肌を立たせながら心の中で悪態をついてしまう。

こういうときは海に行くのがいい。
波の音は格別だ。
汚いものまでスッと持って行っていってくれる。
森でもよかった。
とにかくどこか自然物に触れていたい。
出来ることなら誰もいない森の中で本も読みたい。
鳥の声や風が木々を揺らす音。
温かい日に当たりながら。

この辺りにそんな願いが叶う場所はないけれど。

自然が多くとも、三十二人のクラスが四つあるほどには周りに人が住んでいる。
住宅の中の自然といっても人に見られずなんて出来っこない。

私の希望も夢も、大好きな空間で大好きなものに触れることもここでは叶えられないのだ。

生まれ育ったここが嫌いなわけでは無い。
寧ろ田舎でも都会でもないこの街が私にはあっているから、いい所に生まれてこれたと思っている。

ただ、夢ができた時、ここを離れることが嫌。
いい所だからこそ離れられなくなる。

いつかここを出て働いたり、学業に励んだり。
そうやって沢山の人の中で埋もれながら、もがきながら私なんかが生きていけるだろうか。

一人で生きていないことは知っている。
どこかで誰かが頑張っているから今着ている服も使っている道具も当たり前のようにそこにある。
その人たちがいなければ私は食べてもいけないし、服だってまともなものは着れない。
少なくとも今のような周りに何でもあるような環境下にはあれない。

ということは社会という集団で生きているも同然なのだけれども、私はその一員になれるのか。
何もしないよりは何か仕事を与えられて動く方が好きな私は比較的、仕事をする社会人というのには向いていると思っている。

一番の懸念は私の欠点。

人付き合いが苦手で集団の行動の中ではいつも後れを取る。
人が多すぎる場所ではすぐに気分を悪くして水すら喉を通らない状況になり、仕事どころではなくなるだろう。
顔色ばかり窺って周りに合わせて、常に相手の気分を害すことをしていないか考える癖もついてる。
声が小さく、頑張って声を出しても相手には伝わらないことがほとんど。
胸を張って言える特技もなければ、長所もない。
勉強はそこそこできても運動は全くできないし、体力もない。

そんな人間が集団の中で生きていくことが無理な話に思えてくる。
無理というか、集団のお荷物でしかない。

実際、学校生活はあまり上手くいってはいない。