聞いたことがないぐらい大きな声。
香月自身も自分の声に驚いたようで、すぐに小さく「ごめんなさい」と謝る。
「母が死んでからも、しばらくはまだ平和な毎日でした。変わってしまったのは、父が再婚してから。再婚相手は、私の気味悪い容姿を嫌がって、父にあることないこと吹き込んだりして。再婚相手に子どもができてからは、本格的に私の居場所は無くなって……」
ざわりと風が吹く。
香月は美しい髪をなびかせながら、すぐそこを流れる川に顔を向けた。
「家を飛び出した私は、もう死んでしまおうと思って、川に飛び込みました」
「え……」
突然の告白に、僕は言葉を失う。
だけど香月は逆に、そこでふっと笑って声を和らげた。辛い思い出はここまで、とでも言う風に。
「でも、頭の鉢がこう……浮き輪みたいになって、浮いちゃうんですよね。顔が水面に出ちゃうんです。ふふ、まさか入水自殺がこんなに難易度高いなんて」
「そうか……良かった……」
「それで、沈めないまま川に流されて。……ちょうどこの辺りでした。中条様──貴方のお父様に引き上げられたのは」
父は、香月とは偶然出会ったとしか言っていなかった。
まさか、彼女が自殺しようとしていたところを助け出していたとは。
そしてその後は、僕もよく知る話。
鉢をかぶった奇妙な少女を気に入り、行き場のない彼女を自分が経営する学校の寮で働かせた。
同時に入学も許可し、香月は僕のクラスメイトになった。
話を一通り聞き終えた僕は、そっと彼女の手を握った。
そして、感じたままのことを言った。
「その鉢。呪いじゃなくて愛情なんじゃないかな、お母さんの」
「えっ……」
香月は戸惑ったように首をかしげたが、確信していた僕は大きくうなずく。
「香月は確かに、この鉢のせいで今までつらい思いをしてきたかもしれない。だけど、香月の命を助けたのもまたこの鉢なんだ」
「あ……」
「それに、この鉢のおかげで父さんは香月のことを気に入って、僕のクラスメイトになった。僕らはこの鉢のおかげで出会えたんだ。……それを呪いだって言われると、ちょっと寂しい」
「そっ……か……。愛情……呪いなんかじゃ、なかった」