……そんな香月のことを忌々しそうに睨む者がいた。兄の婚約者たちだ。「香月が自分たちより美人だ」という声が聞こえていたようだ。


「まあ、確かに顔は多少見られるのかもしれないけど、それだけじゃなくて? あまり教養があるようには見えないわ」

「あらあら、確かにその通りだけど、決めつけるのはよくないと思うわ。ふふ」

「そうだ。せっかくこうして集まったんですもの、お茶会に参加してくださっている皆さんへ、この四人で歓迎の演奏会をしましょう?」


彼女たちがくすくすと笑うのは、香月に無茶ぶりをして皆の前で恥をかかせるつもりでいるからだろう。

香月の意見など聞かず、彼女たちはそれぞれ得意の楽器で演奏を始めた。
一番目の兄の婚約者はピアノ、二番目の兄の婚約者はフルート、三番目の兄の婚約者はハープ。

さすがにどれも見事なものだった。


「ほら、あなたもそれで参加して」


その場にある楽器のうち、香月に残されたのはバイオリンだけだった。

初心者のバイオリンなんて聞けたものではない。香月はこの演奏を台無しにするに決まっている。
……と、誰もが思っているようだった。


だけど香月は、迷いなくそのバイオリンを手に持つと、軽く音の確認をした後すぐに演奏に加わった。

あらかじめ曲を伝えられていたわけでもないのに、香月は戸惑う様子もなく弓を動かす。

信じられないほどに美しい音だった。

ずいぶんと練習が重ねなければここまで弾けないというのは、素人にもわかる。

香月は幼い頃から、母親にたくさんの習い事をさせられてきた。これはその成果なのだ。


兄の婚約者たちは予想外の事態に動揺したのか、しだいに演奏にミスが出始める。

そうなれば、この場は香月の独壇場だった。割れんばかりの拍手が、惜しげもなく香月に向けられていた。

その後、香月はお茶を飲みながらたくさんの人と様々な分野の話をして教養の高さを示したり、萎れていた花を美しく生け直して感心させたりした。


もうこの場に、香月のことを「鉢かづき」と呼んで馬鹿にする者は一人もいなかった。