ーーーー 一方、城内の一室。バルダンの前には、膝をついた兵の姿があった。

「まだ見つからないのか!!」

「申し訳ございません! もう日も落ちてしまい、探索も中断しておりまして、ですが、ユリシア様達も、どこかで身を隠しているはずです。ですから、見つかるのは時間の問題かと!」

「何を悠長な事をぬかしているのだ!! いいか? 国の一大事なのだぞ! 一刻も早く処理しなくてはならないのだ! いや、遅いくらいだ。あの平和ボケした国王に任せていては、国の存亡が危うい。早く、代わって、国を治めなければ」

バルダンの沸々とした野望に、怯んで言葉を返せない兵。

「よい!わしが直々に処罰してやろう。夜明け前には出るぞ!馬の用意をしておけ!」

「はっ!!」

バルダンの剣幕から逃げるようにして、部屋を出ていった兵に、ひとつ舌打ちをすると、机の上のバーボンを口に含んだ。

ーーーー 国王の自室。

「オーランド。事はうまく進んでいるのか?」

「はい。とりあえず2人がうまく逃げれるように、手引きはしました。後は、ロランに託すしかないでしょう」

アルベルト国王の前に、直立に聳えるオーランドは、少し揺るんだように瞳を泳がせる。

「本当は、お前もついて行きたいのだろう? 何せロランは、お前にとって、弟のような存在だからな。心配で眠れないだろう?」

その言葉に図星をつかれて、オーランドは小さく微笑んだ。

「早くから両親を亡くした俺にとって、あいつは、ただ1人の家族なんです。もう、手に届かない所に、大切なものを手離したくない。あいつなら大丈夫だろう。そう思う気持ちと。もしもの事を考えてしまって、今は、あいつの事しか考えられません」

今度は真っ直ぐに国王を見据えるオーランド。

「うむ。ならば行くが良い」

「国王? ですが、私はここを、あなたを護る使命があります! 私がここを離れるわけには」

「今起きている出来事は、国を揺るがす重大な問題だ。それ即ち、この国の存亡に関わる。この国を護るのが、お前の使命だというのなら、一刻も早く、2人を見つけ出す事が、今一番、優先すべき事案なのではないのか?」

「こ、国王………」

「オーランド。これは命令だ。それとも、国王である私の命が聞けぬというのか? 」

国王の身に染みるほどの気遣いに、瞳を少し潤ませたオーランドは、右の拳を胸に掲げる。

「はっ!! このオーランド! この命に変えても、この任を果たさせて頂きます!」

よく朝、夜の帳がまだ残る空の下、相変わらず降りやむ雨を切り裂くように、オーランド、バルダンは馬を駆けさせていった。