細い眉をハの字に下げ、ちょっとだけ充血した目で花はにっこり笑った。
「見えた。何か……不運でしたね。花さん」
やはり気の利いた言葉が浮かばない。
「ははっ。ほんとアンラッキーだよね! 告白の返事聞く前にフェンス壊れて屋上から落ちるとか。てか、告白失敗してるし」
花が自虐的に笑った。
「あの、花さん。私が言うのも何ですが、ちゃんとヤマテツ…いや、山田先生に気持ち伝えた方がいいと思います。
多分、花さんの未練って、土壇場で自分の気持ちにウソついて逃げたことなんじゃないですか?」
花は黙り込んだ。
「花さんが好きだった男性は、今もこの学校にいます。
私の担任で、数学教師をしています。
花さん、もう一度きちんと気持ちを伝えてみてはどうですか?」
「でも、アタシはトイレから出られないし、山田からはアタシは見えない。声も届かない」
花は幽霊だ。
そのままでは先生に花の存在を分かってもらうことは難しいだろう。
でも、亜子には考えがあった。
「先生をトイレに呼び出せば済む話です。あとは、私の身体使ってください。
さっき私に花さんの記憶見せてくれたみたいに、私の脳内に入れませんか?」
花は親指で中指の爪をはじいてカチカチさせながらしばらく考えたあとで、顔をあげた。
「できるかどうか分からないけど、やってみる! ダメなら亜子が私の代わりに伝えて」
花が答えたのを確認し、亜子はトイレの非常用呼び出しボタンを力いっぱい押した。
「大丈夫ですか? クラスとお名前は?」
男性の声が応答する。
きっと事務室の職員だろう。
亜子は大げさに泣き真似をしながら、鼻にかかった声を出す。
「3年2組の磯崎亜子です。お腹痛くて、教室戻れなくなっちゃって……」
「すぐに女性の職員を向かわせますね!」
ちがう、そうじゃない。
亜子は、頭をフル回転させた。
どうしてもヤマテツに来てもらわないとダメだ。
花さんはトイレから出られないんだから。
「担任の山田先生呼んでください。山田先生じゃないとダメなんです!」
「分かりました……。しばらくお待ちくださいね」
亜子は花に向かってピースサインをした。
「磯崎! 入るぞ!大丈夫か?」
5分と待たずに、先生がやってきた。
先生は慌てた様子で亜子の肩に手を触れる。
「今だよ! 花さん」
亜子の中に花が入った。
脊髄から指先まで亜子ではない何かに支配される。
「山田、信じてもらえないかもしれないけど、花だよ」
「磯崎……どうした? 頭でも打ったのか?」
彼は亜子の額に手を当て、瞳を覗き込んだ。
先生の手が触れている部分が熱い。
「アタシは亜子じゃない。花だよ。忘れちゃった? 9月30日、山田の誕生日」
亜子の口がひとりでに動く。
「見えた。何か……不運でしたね。花さん」
やはり気の利いた言葉が浮かばない。
「ははっ。ほんとアンラッキーだよね! 告白の返事聞く前にフェンス壊れて屋上から落ちるとか。てか、告白失敗してるし」
花が自虐的に笑った。
「あの、花さん。私が言うのも何ですが、ちゃんとヤマテツ…いや、山田先生に気持ち伝えた方がいいと思います。
多分、花さんの未練って、土壇場で自分の気持ちにウソついて逃げたことなんじゃないですか?」
花は黙り込んだ。
「花さんが好きだった男性は、今もこの学校にいます。
私の担任で、数学教師をしています。
花さん、もう一度きちんと気持ちを伝えてみてはどうですか?」
「でも、アタシはトイレから出られないし、山田からはアタシは見えない。声も届かない」
花は幽霊だ。
そのままでは先生に花の存在を分かってもらうことは難しいだろう。
でも、亜子には考えがあった。
「先生をトイレに呼び出せば済む話です。あとは、私の身体使ってください。
さっき私に花さんの記憶見せてくれたみたいに、私の脳内に入れませんか?」
花は親指で中指の爪をはじいてカチカチさせながらしばらく考えたあとで、顔をあげた。
「できるかどうか分からないけど、やってみる! ダメなら亜子が私の代わりに伝えて」
花が答えたのを確認し、亜子はトイレの非常用呼び出しボタンを力いっぱい押した。
「大丈夫ですか? クラスとお名前は?」
男性の声が応答する。
きっと事務室の職員だろう。
亜子は大げさに泣き真似をしながら、鼻にかかった声を出す。
「3年2組の磯崎亜子です。お腹痛くて、教室戻れなくなっちゃって……」
「すぐに女性の職員を向かわせますね!」
ちがう、そうじゃない。
亜子は、頭をフル回転させた。
どうしてもヤマテツに来てもらわないとダメだ。
花さんはトイレから出られないんだから。
「担任の山田先生呼んでください。山田先生じゃないとダメなんです!」
「分かりました……。しばらくお待ちくださいね」
亜子は花に向かってピースサインをした。
「磯崎! 入るぞ!大丈夫か?」
5分と待たずに、先生がやってきた。
先生は慌てた様子で亜子の肩に手を触れる。
「今だよ! 花さん」
亜子の中に花が入った。
脊髄から指先まで亜子ではない何かに支配される。
「山田、信じてもらえないかもしれないけど、花だよ」
「磯崎……どうした? 頭でも打ったのか?」
彼は亜子の額に手を当て、瞳を覗き込んだ。
先生の手が触れている部分が熱い。
「アタシは亜子じゃない。花だよ。忘れちゃった? 9月30日、山田の誕生日」
亜子の口がひとりでに動く。