莉桜はカメラをインカメに切り替え、光の加減諸々納得のいく場所を探す。しばらくぐるぐるして、やっと良いポイントを見つけたらしい。
「佑馬、こっちこっち。ほらもっと寄って」
言われるがままにぴたりとくっついてスマホの画面を見る。
今この瞬間が心から幸せ、とでも言いたそうな笑顔をつくる莉桜。その隣の僕は、案の定微笑さえ浮かべられず、非常にぎこちない表情だ。
「撮るよー」
莉桜がそう言ってシャッターを切ると、パシャパシャパシャパシャっと連続で何回ものシャッター音が鳴った。
「一枚って言わなかったか?」
「最高の一枚のために連写しないとは言ってないよ。……あは、でもだめ、佑馬ってば見事に全部表情が固い」
「連写されてるのに一枚一枚表情変える方が無理だろ」
「まあね。……とにかくありがとう。この写真佑馬にも送るね。せっかくだからプリントして部屋に飾ってね!」
「何が悲しくて自分が写った写真を部屋に……」
しかも自室は兄と共用だ。莉桜とのツーショットなんて、これ以上ないぐらい揶揄われるに決まっている。
「そんな嫌がらないでよ。せっかくの証拠なんだから」
「証拠?」
「そう。佑馬がこの瞬間確かに、幼なじみの女に恋をしていたっていう証拠」
莉桜はすっすっとスマホを操作しながら言う。
やがて、ポケットに入れてあった僕のスマホが着信を知らせる。
「自己評価低いみたいだけど、私は佑馬って結構モテるんじゃないかと思うよ。それこそ将来小説家デビューしたら、可愛い可愛い女の子のファンとか、あとはこう……美人担当編集とか、向こうからいくらでも寄ってきてよりどりみどりじゃないかな」
「何だよそれ」
「嘘じゃないって。今モテてないのは根暗キャラでやってるから。地位と名声を得たら、みんな佑馬のことめちゃくちゃイケメンだって言うよ」
「リアルな評価をどうも」
「だから私としては、そんなキミが過去に愛した女が私だっていう証拠を未来のカノジョたちに見せつけたいわけですよ」