一年生の頃は部活がほとんど終わるような時間にしか美術室に顔を出さなかった裕也も、二年生に上がってからは、放課後時間を空けずにそのまま部室にやってくることが増えた。

相変わらず美術部に入部届を出してくれることはなかったが、今ではよく出入りする生徒として、部員達とはそれなりに、というか、かなり仲良くやっている。

進級して新しく入ってきた部員はやっぱりその大半が女子生徒で、男子は一人だけだった。だからだろうか、滅多に放課後、男子と関わらない女子生徒は部員でもないのにやってくる裕也のことを「裕ちゃん」なんて呼んで可愛がったし、はたまた件のたった一人の新入部員の男子生徒は、同性の先輩である彼にあっという間に懐いた。

彼が部員と仲良くなるのはいいことだ。そのはずなのに、

“少し前まで、二人の時間だったのになぁ”

なんてことがふと頭に浮かんだものだから。俺は慌てて首を振って、その考えを打ち消した。何を考えているんだ。これじゃまるで、部員のみんなに嫉妬してるみたいじゃないか。

けれどやっぱり、彼と二人で過ごす時間は好きだった。場所は放課後の美術室。時々、俺と彼、二人だけが世界に取り残されてしまったかのような錯覚を覚える。

もし本当にそうなったらどうだろう? 

こわいだろうか、それとも寂しい?

色々考えてみたけれど、案外彼とならそれも悪くないんじゃないかなんて思ってしまったものだから。自分のそんな思考に、ほとほと呆れてしまう。

多分俺は、とりたてて何かを話すわけでもない、ただ互いが隣にいるだけのその時間が、本当に心地よかったのだと思う。

そんな穏やかで、あとから考えたらどこか狭く、閉じた世界がこれからもずっと続く。そう、この時の俺は疑いもせず、当たり前にそんな未来を信じていた。