「……あ」

すると、突き当りを曲がろうとした時、突然相馬君が足を止め、私は何事かと振り返る。

表情が固まった状態で、ある一点を見つめている相馬君。その視線の先に目を向けると、私もそこで動きが止まった。

「美菜……」

暫くしてから、相馬君は呟くように目の前にいる人物の名を呼ぶ。

けど、その声は当然届く事なく、携帯をいじっていた瀬川さんは私の姿に気付くと、少しだけ目を見開きその場で立ち止まった。

「朝倉さん、丁度良かった。今からそっちのクラス行こうと思ったんだけど、圭太君いる?」

顔を合わせるや否や、早速一杉君の話に思わず眉が少しだけ釣り上がる。しかも、よりにもよって相馬君が側にいるというタイミングの悪さに、表情が歪みそうになるのを何とか堪えた。

「……ごめん、分かんない。私職員室から戻ってきたところだから」

私は視線を足元へ落とすと、少し声のトーンを低くしてそう答える。
それから、相馬君の様子が気掛かりで、何気なく隣の方に視線を向けて見ると、彼の表情からいつもの穏やかな笑みはすっかり抜け落ちていて、眉間にシワを寄せながらひたすら瀬川さんを見つめていた。

その刹那、胸が締め付けられるような感覚に陥る。