「とりあえずさ、一杉君が何を考えているのか知らないけど、問題は瀬川さんなのよ。昨日だって警告されたし……、これ以上関わると、彼女の逆鱗に触れそうで怖いんだよね」

そして、一番懸念している事に焦点を向けて、私は肩をすくませた。

とにかく、今一杉君を避ける理由はそれに限る。
彼に執着する彼女の事だから、いつ何処で見られてるのかも分からないし、変にいちゃもんをつけられてはたまったものじゃない。

「う~ん……確かに。でもさ、それは仕方ないことじゃない?仮に一杉君が由香里に惹かれてるんだとしたら、彼女の魅力はそこまでって事よ。少なくとも、一杉君は今由香里に注目している事には変わりないんだし、本当に贅沢な悩みじゃんっ!」

一体どこが。

……と、これまた喉まで出かかった言葉を、私はすんでのところで引っ込めた。

結局、一杉君が私を好きだという説を曲げることなく、勝手に話を進めていく夏帆に、私はもう何も言葉が出てこなかった。

全く、他人事だと思って、随分呑気な言い草だと思う。

一杉君が私のことをどう思っているかなんて正直、どうでもいい。

容姿は申し分なく整っているし、文武両道で性格も良さそうだけど、あの八方美人な振る舞いは私の中ではあまり好きじゃない。

慣れているのかそれとも性分なのかは知らないが、時たま女心を掴んでくるような仕草に私自身も揺らぐ事があるけど、タイプではない。

だから、そんな中で瀬川さんの反感を買う行為は迷惑極まりないし、面倒事に巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。

少しはそこを理解して貰いたかったのに、勝手に妄想を膨らませている夏帆にはなかなか難しい要望かもしれない。