「フレンチトーストなら食べられるか?いや、重いよな」
「ううん、食べられそう。むしろ食べたい」
病院から帰って学校の課題に頭を悩ませていると、廊下からお父さんの声がした。
フレンチトーストの気分ではなかったけれど、父の優しさに応えたかった。
「よかった。部屋に入ってもいいか?」
「うん」
「勉強か?」
お父さんはフレンチトーストが盛られた皿を机に置きながら眉をひそめた。
「うん、どうしても解きたい問題があって」
「そうか、無理だけはするなよ」
「うん」
フレンチトーストが私の大好物だっただけにお父さんの得意料理になったそれは、口に運んだ瞬間に口内に溶けて広がった。
鼻まで抜けるその甘く優しい匂いに、思わずうっとりとしてしまう。
甘すぎず重すぎないそれは私をやさしく包んでくれた。
「凄く美味しい。ありがとう」
「食べてくれてよかった。いくらでも作るから食べたいときは言うんだよ」
父は笑みを浮かべて床に座った。
これはいつものことだ。
私の部屋に来て床に座るのは、きっと働きづめで腰に負担がきているから。
そんなお父さんのために最近はクッションを置いてあげている。
「そうだ、今週どこかに出かけるか?」
突然の提案に驚いたけれど、私の心は決まっていた。
「もしできたらでいいんだけど、久しぶりにお母さんのお墓参りに行きたいかな」
地雷を踏んでしまったのか、お父さんの表情が一瞬強張った。
お母さんに会ってしまえば、私が最悪の選択をしてしまうようで怖かったのだろうか。
それから、返答を渋りだしたかのように口を開いた。
「そのことなんだけど俺が行っておくよ。蒼来は坂がつらいだろ」
「大丈夫。今回は行きたいの」
お父さんはわかりやすく顔を顰めて私を見る。
それでも私は引き下がらない。
私がお墓に入ってからでは意味がないから。
なんてことはさすがに言えないけれど。
「そうか、じゃあ行こう」
終始私の顔色を窺うお父さんだったが、最後は私の希望を受け入れてくれた。
最悪の選択なんてしない。
生きるために会いに行きたい。