入院中はいつも病室にいる気になれなくて屋上にいるのが日課だった。


けれど、今日はなぜか屋上が閉鎖されていて、仕方なく近くの椅子に座って外を眺める。


こればかりは仕方がない。


むしろ、これまで開いていた方が奇跡に近い。


最近は安全性の観点から、屋上がない方が普通みたいだし。


「東屋さん?やっぱり東屋さんだ」


振り返るとそこには葉月くんの姿があった。


彼は私に笑顔を見せて子犬のように近寄り、近くの椅子に腰を掛けた。


「また会ったね」
 

「そうだな」

 
「ご家族の体調はどう?」

 
「順調に回復しているよ」

 
「そっか、良かった。葉月くんのお見舞いの効果かもね」

 
「そんなことないよ。それと、透真でいいから」


「わかった」

 
「俺も、蒼来って呼んでいい?」

 
「もちろん」

 
異性に下の名前を呼び捨てされる機会のなかった私は、一瞬、胸が高鳴るのを感じた。

 
「蒼来の体調は?」

 
「変化なしって感じかな」

 
「そっか」
 

自然と空気が悪くなってしまったことが申し訳ない。

 
誰もこの空気を望んではいなかったけど、嘘をつくのも違う気がした。
 

とはいえ、隠し通せる自信がなかったのが一番の理由なんだけど。

 
「あのさ。花火大会、一緒に行かないか?」
 

「え?」

 
「ほら、なにかあった方が頑張れるだろ?蒼来も俺も」

 
「う、うん」

 
「いや、これじゃあ頑張れないよな。友達と行きたいだろうし……」


勢いあまって言ってしまったのか、肩をすぼめて俯く透真くんを見て思わず微笑んだ。

 
「ううん、私は透真くんと行きたい」

 
「本当にいいのか?」

 
それに目を合わせて大きく頷いた。
 

透真くんとなら楽しめそうな気がした。

 
それに、何かあったときも安心できる。
 

万が一、体調不良で花火を見に行けなくなっても、嘘をつかなくていい。
 


透真くんの優しさを、その捉え方しかできない自分が情けなく思えた。