約束通り、週末は母のお墓参りに来ていた。
 

坂の上の母のいる場所まで、自分の足で歩いて向かう。
 

お父さんが言っていたみたいに、やっぱり私には坂が苦しい。


けれど、まだ私の足は意志のまま動いてくれる。
 

ちゃんと生きている。
 

まだ自分でできることをできないことにしたくなかった。


時折吹き込む温かい風で、母に包まれている気がした。



それは、あの夜感じた温もりと同じ。


私がずっと包まれていたいと思う温もり。


「お母さん、久しぶりだね」


「今日は蒼来も一緒だから相当喜んでるだろうな」
 

「そうだったら嬉しいな」

 
ゆっくりと目を瞑り、手を合わせる。

 
母が抱いていた不安や痛みに気づき始めた今、この時間ほど大切な瞬間はない。

 
かけがえのない瞬間を噛みしめながら空を見上げる。

 
母の分まで、何より与えらえた命に恥じないように、明日からもまた一生懸命生きようと思った。
 

「そろそろ帰ろうか」

 
「そうだね。じゃあ、またね」


私の体調を最優先するお父さんの後を着いて車に戻った。 


「また連れてきてよ、お母さんに会えて嬉しかった」 


返答に困るお父さんは、しばらく言葉を選び、口を開いた。

 
「そうか、また来よう」

 
不安げな面持ちのお父さんを察して、外を眺めた。

 
目の前に広がる桜の木は、主役となり輝く日を待ちわびて青を輝かせていた。

 
光が反射して映えているそれは、私の心をも照らした。

 
そして、またこの場所で母に会えることを祈りながら大きく手を振った。
 

「このあとどこかに寄る?」 


「じゃあ、アイス最中が食べたい」


「わかった。帰りに寄ろうか」


先程とは打って変わって私の提案に乗り気なお父さんが微笑ましい。

 
「それにしても久しぶりだな」 


「だね」

 
アイス最中は母との思い出の味であり、思い出の場所でもある。
 

それは、事あるごとに家族の輪の中心にいて、甘さが家族を優しく包んでくれる。

 
その存在に何度救われたことか。

 
あいにく店内は満席で、近くの駐車場に車を停めてお父さんが1人で買いに出た。

 
数分後、お父さんは最中と保冷バッグを手に車に戻ってきた。


 
「持ち帰りもしたから食べたいときに食べて」
 

「ありがとう」
 

「ほら、早く食べな。溶けるよ」

 
お父さんに続いて、アイスが溶けてしまう前に慌てて口に入れる。
 

パリパリの最中に挟まれた濃厚なたまごアイスがたまらない。 


アイスの種類は他にもあるけれど、やはりこれが一番のお気に入り。
 

やさしくてまろやかで、何度食べても初めて食べたみたい。
 

 
今日は昔を思い出しても特別感極まることはなかった。


きっと、母に会うのはそう遠くない未来だと思うようになったから。