翌朝、同じタイミングで家を出た恵那と斗和は、挨拶を交わす事も無く、学校のある方角へ歩き始めた。

 恵那が先を歩いて行き、少し離れた距離を保ちながら、斗和がその後ろを歩いて行く。

 学校が近付くにつれて他の生徒たちの姿もちらほら見受けられるものの、皆、恵那の姿を見ると、挨拶をする訳でも無く、ヒソヒソと話をしては、好奇の目で恵那を見ているのを目の当たりにした斗和。

 自分もいつも周りから同じように見られているから、すぐに察しがついた。


(恵那のヤツ……周りから距離を置かれてるのか?)


 昨夜の恵那の言葉に、今のこの状況。

 まだこの町に来たばかりという事や芸能人という事を差し引いたとしても、周りの態度が恵那を苦しめているのではと斗和は考えた。

 そして、

 学校に着き、靴を履き替えて教室の前までやって来た恵那と斗和。恵那が小さく溜め息を吐いて教室のドアを開けるや否や、クラスメイトたちの反応を見て、完全に確信した。


(やっぱり。周りと上手くいってないのか……)


 そして、昨夜、恵那に言い放った言葉で何故あそこまで彼女が怒ったのかも理解した斗和は、恵那が自分の机の前に立ち、鞄を置いて椅子に座ろうとしたタイミングで、


「おい、恵那ちょっと来い」
「え? あ、ちょっと、斗和?」


 恵那の名を呼んで腕を掴んだ斗和は、クラスメイトたちがヒソヒソと会話を交わしているのを睨み付けると、彼女の腕を引いたまま無言で教室を出て行った。


「ちょっと、斗和? 離してよ……。ねえってば」


 恵那の問い掛けを無視したまま、斗和は歩みを進めて行く。

 そして、

 そんな二人が辿り着いた先は屋上だった。