「何だよ?」
「私、今の斗和の言葉には、納得出来ない」
「は?」
「俺と居ない方がいいって言った事、納得出来ない」
「いやいや、普通そうだろ? 俺みたいな厄介者と一緒に居たら、お前も周りから白い目で見られて距離置かれんだぜ?」
「そんなの、別にいいもん」
「良くねぇだろ? つーかお前はアイドルなんだろ? 何でこんな田舎に来たのかは知らねぇけど、アイドルならいつも通り笑顔振り撒いて、周りからチヤホヤされて過ごせばいいじゃん。その方が楽だろ?」


 斗和のその言葉は、そこまで深く考えての発言では無かったし、恵那が周りから疎まれているなんて知らなかったから、アイドルなら尚更自分と居ない方がいいと思って言った言葉だった。

 だけど、恵那にとってその言葉は何よりも許せないもので、


「私は別に、チヤホヤされたいなんて思わない! アイドルなんて……もう、過去の事だよ。今の私には、関係無い。私はもう、アイドルの【海老原 恵那】じゃ無いんだから! 斗和の馬鹿!!」
「あ、おい、恵那――」


 斗和なら自分の事を分かってくれると思っていただけに、今の言葉は相当ショックだったようで、怒りに身体を震わせながらそう言い放つと、斗和の呼び掛けに振り返る事無く家の中へ入って行った。


「……何なんだよ、一体……」


 残された斗和の呟きだけが、虚しく残る。

 一方怒りに任せて家に入った恵那は、そのまま割り当てられた自室へ入ると崩れ落ちるように床に座り込んだ。


(……斗和の馬鹿……何で、あんな事言うのよ……。でも別に、斗和は悪くないんだよね。だって、私の事情なんて知らないんだもん……)


 恵那は、何気無い斗和の言葉と、そんな斗和に八つ当たりをした自己嫌悪で、酷く落ち込んでいた。


(ホント、最悪……もうやだ……)


 斗和との出逢いは、何かを変えてくれる。

 そんな気がしていた恵那は自分の行動を酷く後悔し、


「恵那? 何かあったのかい?」
「……何でもない。疲れたから、今日はもう寝る。お休み……」


 心配して部屋の前までやって来た祖母の問い掛けに答える事しか出来なかった恵那は部屋から出る事も無く、眠れぬ一夜を過ごすのだった。