たっぷりひだをつけた衣をまとった肢体はすらりとして、金に近い茶色の巻き毛が未婚の娘らしく肩を覆っています。男性好みのぽってりした唇といい「もう少し」と言わずとも十分美しい娘です。

「ああ、アルテミシアか。きれいだろ」
 女神さまの視線を追ったデニスが、早く帰ろうと急かしていたのも忘れてうっとりと娘の名前を教えてくれました。が、その後余計なことを言ってしまったのです。
「神殿の女神さまよりきれいだって言われてるんだ」

「なにー!? ふざけるな! そんなことあるものか」
 当然女神さまは怒りだします。
「無責任なことを言いおってからに! 目が腐ってるのじゃないか? うるわしのわら……女神をあんなものと比べるとは!」
「し、知らないよ。女神さまなんて似姿でしか知らないし。なんでそんなに怒るのさ?」
 ぎゃいぎゃい騒ぐ声が禁域に届きます。
「くっそー。あんな乳臭い娘の風下に置かれるとはっ。おまえらは街の守護者たるわらわをなんと心得る!?」

「……なんですの? このちんちくりんな子どもは」
 乳臭いと罵倒した娘の足が目の前にあります。デニスが慌てて女神さまの口を手でふさぎましたがもう遅いのです。
 傲然と見下ろすアルテミシアの足元で、さすがの女神さまも今は分が悪いことを悟られたのか、らしくもなく目を泳がせてしまったのであります。




「ほら、さっさと歩きなさいな。うまくまこうとしたって無駄ですからね」
 むんずと女神さまとデニスの腕を握ってアルテミシアは高飛車にのたまいます。金茶の巻き毛を隠すようにかぶった布の下で、彼女の目が爛々と輝いています。女神さまもびっくりの目力です。

 ふたりの保護人の元に案内しろと言ってきかないアルテミシアを、仕方なくテオの家へと連れていく途中でした。
 禁域で乙女たちを覗き見るという大罪を犯した女神さまとデニスではありましたが、未成年の子どもがしたこと、見逃してやってもいいが保護人に一言言ってやりたい、とアルテミシアが主張したのです。

 デニスの雇い主であり、覗き見に行くのを知っていながら送り出した禿ちょろびんの男性に責任を押しつけても良かったのですが、デニスがそれを良しとしませんでした。
 テオに知られて叱られるのはごめんだと女神さまは反対されましたが、この時間ならどうせまだテオは帰ってきていない、それであきらめてもらおうとデニスは画策したのです。それで女神さまも納得して、今に至るというわけです。