この歌声は、神殿の奥の禁域で踊りや祭礼歌の練習をしている乙女たちのものでしょう。デニスや男性たちはその禁域に忍び込んで乙女たちの姿を盗み見た、ということのようです。

「けしからん」
 目を吊り上げる女神さまの前でデニスがますます小さくなります。
「その覗き場所にわらわを連れていけ」
「へ?」
「わらわもべっぴんぞろいの乙女たちを拝んでみたい」
 にやりと笑って女神さまはデニスをせっつきます。何も今、覗きに行ったりしなくても祭礼が始まればお目にかかれるでしょうに。

「おお、行ってこーい」
 禿ちょろびんの男性が無責任に手をあげます。この人はおもしろがってるだけなのです。
「行くぞ、デニス」
 女神さまに腕を引っ張られてデニスは仕方なさそうに立ち上がります。

「こっちだよ。登れる場所がある」
 行き止まりなはずの劇場の建物の向こう側をデニスが指差します。女神さまは楽しそうに頷き、先に立ってそちらに向かわれたのでありました。




 劇場の奥の行き止まり、切り崩した丘の側面の踏み固めた窪を登って、容易に神殿の裏に行き着くことができました。
「しようのない輩がおるのじゃのう」
 女神さまは嘆かれます。御自分がしていることだってしようのないことですのに。

 崖から少し頭をのぞかせれば、そこが禁域です。もともと丘陵の高い位置にある街のさらにてっぺん。空が近くなったように感じます。
 その禁域の広場で、二十人ほどの少女たちが輪になって合唱しています。天空から降り注ぐ日差しが、めったに表になど出ないだろう少女たちの白い腕を焦がします。屋内や木陰に戻って早く休みたいでしょうに、少女たちは辛抱強く高らかに天上に向かって歌いあげます。

 わたしの目には酔狂としか映らない、これが人間たちが言う「訓練」なのでしょう。そもそも天上に座してこの歌声を聞き入れるべき御方は、ここで覗き見などしていらっしゃるというのに。

「ふむふむ、なるほど。いずれも可愛い顔をしておる。まあ、もう少し育てばだな」
「ねえ、ファニ。もういいだろ? 戻ろうよ」
「待て待て、もう少し吟味してやるゆえ」
 どうやら敬虔な気持ちになったらしいデニスが止めるのに、女神さまは身を乗り出して目を皿にしていらっしゃいます。やがて女神さまの視線は、中でもいちばん背の高い大柄な少女に固定されました。