「あーー」
「えっ!?何?」
急に大声を上げた希心に僕だけではなく病室にいた全員がビックリして僕たちの方を向いた。
凄い数の視線を僕たちは浴びている。
周りを見渡すと病室の人たちは勿論、廊下にいたちっちゃい子もこっちを見ている。は、恥ずかしい。
それから希心の方に視線を戻すと希心はドラマに真剣になり過ぎて瞬きをしていなかった。
「えっ!?まじで何?意味がわからないんだけど」
声をかけても返事は来ない。集中しすぎてこっちの声なんて届いてもいない。
多分これは僕がいくら声を掛けても返事が返ってこないと思う。
だけどそれだけこの一つのドラマに集中することができるのが凄い。
「本当に好きなんだな」
希心は何をしても反応をしないから僕も気にしないで一緒にドラマを見た。
結局...希心は、ドラマ三話分を最後まで一歩も動かないまま見終わった。
3時間もずっと同じ体制で...
彼女は不思議な子だ....
僕が今までに出会ったことのないタイプの子...
無邪気で、元気で。かと思えば急に集中し出して何時間も黙って動かない。
今日、と言うかさっき初めて出会ったばかりだけど....彼女の方が気になってしまう。
一つ一つの行動が、僕にはないものだから...
僕にはないものを希心は持っている...
多分生まれ持ったものが違うんだろう...
こうして、すぐに自虐してしまうのが、僕の嫌いなところ。
だけど、さっきから一つ気になることが頭の中にある。
こんなにも元気な彼女が、何故病院にいるのだろうか。
見た感じ怪我とかはしていない。と言うことは何かの病気を患っているのか?
でも、僕から「君は何かの病気を患っているの?」とは聞けない。
それに、いずれは関わることのなくなる人のことに興味を示すのは時間の無駄。
仲良くなればなるほど別れが寂しくなる。
いつかは人間一人になってしまう生き物だ。今隣にいる人ともこれから先の人生を共に生きるとは思えない。
それに、裏切られるのが怖いから。僕は一番身近な人でそれを経験してる。
だから僕には分かる。この辛さが。