仇を討って気持ちが晴れるかと思っていた。実際は――毎日のように悪夢にうなされる。毎日、起きている時も恐怖に襲われる。ナナの覚悟はそんなものだった? 怨みは晴らせば消えると思っていた? そんな葛藤の中で、深い海の底でもがき苦しむ。晴らしたはずなのに、自分がまるで呪われたかのようだ。終わりのない恐怖が襲う。半妖との取引は寿命を半分差し出すこと。どの程度残っているかは教えてもらえない。教えてもらってもそれはそれで恐怖の渦の中にいるだろう。だからこそ、自分の寿命がわからないけれど、半分になっている。その事実が徐々に這うように襲う。まるで顔のない悪魔のように見えない何かが背後を襲う。そんな苦しみと引き換えに人々は怨みを晴らすのだろうか。

 そこまでして晴らして、幸せな人もいるのだろうか? 疑問が渦巻く。何もせずにそのまま悲しみだけを抱えて生きていたほうが幸せだった? お母さんさえ生きていれば幸せだった? エイトがお父さんになって同居していたら幸せだった? もしもの話は仮定であって、今議論しても本当の答えなんてない。

 結局、残ったのは命が短くなったという悪夢と恐怖だった。どのように生きても結局幸せにはなれなかったのかもしれない。後悔と悲しみを抱えて依頼者は生きていくのだろうか。後悔が1ミリもないと言える人間だけが依頼するべき領域なのかもしれない。生半可な気持ちや悲しいからという気持ちだけで依頼をすると、自身が苦しい。こんなことわかっていたはずなのに……。毎日夢の中でうなされる。ふと一人になった時にも考え込むことが増えた。

 怨みを晴らしても、全然幸せになっていない。夢の中では仲間のはずの半妖たちがあざ笑う。そして、黒いもやの中に呼び込もうとする。そこは地獄なのだろうか。あの世のどこかなのだろうか。絶対に足を踏み入れてはいけないような気がする空気が漂う。暗黒の雲が渦巻く見えない世界。そこは罪悪感を背負った人間が入るべき場所なのかもしれない。

 和服姿の妖怪の姿のエイトが手招く。いつもは優しい樹が植物のツタでナナの体を縛り付ける。夢の中の彼らの表情はとても冷たい。そして、逃れられない呪縛に縛られた。

 気が付くと眠っていたようだ。最近は熟睡ができない。自分への嫌悪感で悪夢を見ているのかもしれない。これからどうやって生きていこう? これが求めていた幸せ? 何かが違うような気がする。