小学一年生のゆらちゃんという女の子が毎日、夕ご飯を食べに夕方やってくるようになった。子ども食堂以来の常連さんだ。お母さんと二人暮らしでお母さんは主に夜仕事で出かけているので、夜ご飯は家にあるものを適当に食べるという生活らしい。お母さんは、夜ご飯を作っていかないのだろうか? 昼食は給食で栄養がばっちりだから、夜はちゃんとしたおかずを食べなくても大丈夫だという考えだというらしい。朝は母親は寝ているので、菓子パンを適当に食べてほしいと言っていたとのことだ。

 これは世にいうネグレクトという虐待じゃないだろうか? ナナは目の前の一人の子どものことが心配になった。ナナも母子家庭で育っているが、母親は夜の分は作り置きをしてレンジで温めるだけでおいしくたべられるように工夫していた。長期休みはおべんとうを作ってくれていたし、栄養が取れないとか食事に困ったことはない。それは子どもとして恵まれた生活だったと思う。

 よくよく観察をするといつも同じ服を着ているような気がするし、お風呂も毎日入っていないような感じもする。これは、児童相談所へ相談しないといけない案件ではないだろうか? でも通報って虐待ではなければ大げさじゃないだろうか?

「うちのまかないめしはおいしいかい?」

 サイコは居酒屋裏メニューのまかないめしを無料で与える。赤字じゃないのだろうか? 今日はコンビーフとチーズを混ぜてレンジであたためたものだった。溶けたチーズがコンビーフに絡んでとてもおいしそうな一品だった。その他、定食屋の余った食材で一食分が栄養の偏りなく、まかなわれていた。

 奥の方へ行き、サイコさんに耳打ちする。

「あの子、母親が育児放棄しているんじゃないでしょうか? それと、毎日無料で食事って居酒屋のお金は大丈夫なんですか?」

 樹が丁寧に説明する。

「以前ボスが子ども食堂に行ったときにいつでも食べたい子は来ていいって公言したんだよね。あと、半妖には国から半妖手当も出ているから、そういった手当を経営に回したりしているんだよね」

「半妖手当なんてあるんですか?」

「国としては、怨みを晴らすという仕事をしている半妖への謝礼金みたいなものらしいよ。これも大昔からあるもので、その時代の単価に合わせて支給されているんだよ」

 その事実に驚く。世間には知らないことがたくさんあるのかもしれない。国の裏にはきっともっと秘密が隠されているのかもしれない。

「まかない食は、従業員が食べたりするものだから。余った食材でちゃちゃっとつくったりするものだからね。一人分くらいは特に支出がかわるものでもないし、食品ロスをなくすという目的も大きいね」

 樹はやはり色々考えている。エイトがこの店を安心して任せているのは合点がいく。

 食品ロスかぁ、たしかに余った食材を捨てるという問題はどこの家庭にもあるし、スーパーやコンビニでは賞味期限があるから、捨てないといけないよね。それは、衛生上のきまりで仕方ないけれど、もっと困った子どものために賞味期限が近いものを活かせないのかな。

「私、ゆらちゃんの件、NPOをやっている小春さんに相談してみます」
 部屋に戻ると、早速名刺を探し出し、電話をかけてみた。

「もしもし、小春さん? 私、鈴宮ナナです。」

「ナナちゃん? ひさしぶり」

「今、大丈夫ですか?」

「いいわよ」

「実は、子ども食堂を利用したゆらちゃんが毎日うちの居酒屋に夕食を食べに来るんです。母親が夕食を作っていないらしくて。夜の仕事をしているらしいし、子ども一人で夜放っておくなんて……」

「わかった。私の方も色々対処してみるけれど、児童相談所に相談してみようか? 今から行ってみるよ」

「レオさんとはどうですか?」

「彼はまだ残業だし、私もNPOの事務所で残業。意外と一緒にいる時間って少ないのよね」

「でも、幸せそうですね」

「ありがとう。そうね、食品ロスの取り組みとして今、うちの団体でフードドライブ事業も実施しているの」

「フードドライブ?」

「食品を福祉施設や困っている人に渡す取り組みなのよ。できるだけ簡単に食べられるものが助かるっていう話だけど、食べ物だけで子どもが救われるのかと言ったら家庭の問題が根深いから難しい問題よね。食は生きる基本だからね。一緒に対処しましょう。まず私もその子に会ってみるから、待っていて」

 あどけない顔をした少女がおいしそうにまかない飯を食べている様子を見ると心がひどく傷んだ。

 たしかに、母親に怨みを晴らす依頼が子どもからあるわけではない。母親がいなければ、子どもが小さければ一人で生きていくことはできない。それに、どんな母親でも子どもは母親が大好きだ。半妖に依頼するはずはない。これは、半妖でも解決ができない難問だとナナは頭を抱えた。