「オリビア……様」
「様はやめてくれ。これでも同じ学院に通った同輩じゃないか」
そう、目の前に屹立する美女、オリビアはエルヴィンと同じ魔法学院に通っていた同級生だった。
生まれながらの由緒ある家柄出身のオリビアと、平民のエルヴィンでは立場は違う。
しかし、オリビアはそんな立場の差を感じさせない、公平で清々しい性格の持ち主だった。
「久方ぶりだね、エルヴィン。卒業以来だから、五年ぶりかな」
「そ、そうですね」
「こら」
突然ぐっと顔を寄せるオリビア。
その距離の近さにエルヴィンは胸がどきまぎする。
「敬語も禁止だ。私と君は友人のはずだろ。それとも何か、たったの五年で私たちの友情は消えてしまうような脆弱なものだったか?」
「分かったよ、オリビア。僕の負けだ」
オリビアの花のようなフレグランスにクラクラしながら、エルヴィンは諦めるように項垂れた。
「それでよし」
狼狽するエルヴィンの顔を見て、何故か満足そうに頷くオリビア。
「君は相変わらずだね。貴族なのに、僕みたいな平民を相手にするなんて」
「何を言うか。生まれだけで偉そうな態度をするゴミよりも、才能に溢れる人間を評価するのは当たり前だろ?」
不思議そうな顔で首を傾けるオリビア。
この国の貴族にはかなり珍しいと言える、竹を割ったようなまっすぐな性格は、健在のようだ。
「それで、さっき言ってた没落貴族っていうのはなんの冗談だ?」
オリビアの生まれであるヘンジー家は王国有数の貴族の一つ。
そう簡単に揺らぐようなものとは思えない。
「ああ、冗談じゃないよ。こうして君に会いに来た理由も、そこにある」
少し眉を顰めて、エルヴィンの顔を見るオリビア。
何やら厄介ごとを抱えていそうだ。
「ヘンジー家の統治していた土地の大半が新国王によって領地没収の上、王国で任されていた役職もその大半を解任されてしまった」
「なっ……⁈」
そんなわけがない、そんな言葉が喉まで出かかった。
「国王といえど、そんな横暴が許されるのか? 周りの貴族から大反対に遭うんじゃないか」
「いや、それが反対は起きなかった。それどころか幾つかの貴族が、率先して他の貴族を追い出しにかかったのだ。あのクソガキめ、事前に相当の根回しをしていたようだ」
「クソガキって……」
若き国王をクソガキ呼ばわり。
学院時代のオリビアの口の悪さを、エルヴィンは久しぶりに思い出した。
「私としたことが、こんな事態になるまで気が付かなかった。ここまで新国王派が用意周到に準備して、自分の周りを都合の良い人間だけで固めてくるとは。あのクソガキにこんな高度な政治駆け引きができるだろうか?」
「それは……裏に糸を引いてる奴がいるってことか?」
「あくまで可能性の話だ」
はぁ、と肺の空気を全て出すように、ため息をつくオリビア。
「とにかく、他のいくつかの大貴族と同時に、ヘンジー家もかなり窮地に立たされてしまった」
「そうだったのか。大変だったな。僕に何か力になれることはーー」
そう言いかけて、エルヴィンは口を継ぐんだ。
エルヴィンは今や無職の身。
人助けなどしている場合ではない。
「力になってくれるのかい?」
何故か嬉しそうに、ニヤリと笑みを浮かべるオリビア。
「そう言ってくれると思ったよ。実は君の力を見込んで、頼みがある」
「頼み?」
オリビアはコホンと喉を鳴らして、改めてエルヴィンに向き合った。
「私と一緒に、田舎の荒廃した領地を復興させてみないか?」
「ーーは?」
思わず漏れた、素っ頓狂な声。
それは、運命の歯車が動き出す音だった。
「様はやめてくれ。これでも同じ学院に通った同輩じゃないか」
そう、目の前に屹立する美女、オリビアはエルヴィンと同じ魔法学院に通っていた同級生だった。
生まれながらの由緒ある家柄出身のオリビアと、平民のエルヴィンでは立場は違う。
しかし、オリビアはそんな立場の差を感じさせない、公平で清々しい性格の持ち主だった。
「久方ぶりだね、エルヴィン。卒業以来だから、五年ぶりかな」
「そ、そうですね」
「こら」
突然ぐっと顔を寄せるオリビア。
その距離の近さにエルヴィンは胸がどきまぎする。
「敬語も禁止だ。私と君は友人のはずだろ。それとも何か、たったの五年で私たちの友情は消えてしまうような脆弱なものだったか?」
「分かったよ、オリビア。僕の負けだ」
オリビアの花のようなフレグランスにクラクラしながら、エルヴィンは諦めるように項垂れた。
「それでよし」
狼狽するエルヴィンの顔を見て、何故か満足そうに頷くオリビア。
「君は相変わらずだね。貴族なのに、僕みたいな平民を相手にするなんて」
「何を言うか。生まれだけで偉そうな態度をするゴミよりも、才能に溢れる人間を評価するのは当たり前だろ?」
不思議そうな顔で首を傾けるオリビア。
この国の貴族にはかなり珍しいと言える、竹を割ったようなまっすぐな性格は、健在のようだ。
「それで、さっき言ってた没落貴族っていうのはなんの冗談だ?」
オリビアの生まれであるヘンジー家は王国有数の貴族の一つ。
そう簡単に揺らぐようなものとは思えない。
「ああ、冗談じゃないよ。こうして君に会いに来た理由も、そこにある」
少し眉を顰めて、エルヴィンの顔を見るオリビア。
何やら厄介ごとを抱えていそうだ。
「ヘンジー家の統治していた土地の大半が新国王によって領地没収の上、王国で任されていた役職もその大半を解任されてしまった」
「なっ……⁈」
そんなわけがない、そんな言葉が喉まで出かかった。
「国王といえど、そんな横暴が許されるのか? 周りの貴族から大反対に遭うんじゃないか」
「いや、それが反対は起きなかった。それどころか幾つかの貴族が、率先して他の貴族を追い出しにかかったのだ。あのクソガキめ、事前に相当の根回しをしていたようだ」
「クソガキって……」
若き国王をクソガキ呼ばわり。
学院時代のオリビアの口の悪さを、エルヴィンは久しぶりに思い出した。
「私としたことが、こんな事態になるまで気が付かなかった。ここまで新国王派が用意周到に準備して、自分の周りを都合の良い人間だけで固めてくるとは。あのクソガキにこんな高度な政治駆け引きができるだろうか?」
「それは……裏に糸を引いてる奴がいるってことか?」
「あくまで可能性の話だ」
はぁ、と肺の空気を全て出すように、ため息をつくオリビア。
「とにかく、他のいくつかの大貴族と同時に、ヘンジー家もかなり窮地に立たされてしまった」
「そうだったのか。大変だったな。僕に何か力になれることはーー」
そう言いかけて、エルヴィンは口を継ぐんだ。
エルヴィンは今や無職の身。
人助けなどしている場合ではない。
「力になってくれるのかい?」
何故か嬉しそうに、ニヤリと笑みを浮かべるオリビア。
「そう言ってくれると思ったよ。実は君の力を見込んで、頼みがある」
「頼み?」
オリビアはコホンと喉を鳴らして、改めてエルヴィンに向き合った。
「私と一緒に、田舎の荒廃した領地を復興させてみないか?」
「ーーは?」
思わず漏れた、素っ頓狂な声。
それは、運命の歯車が動き出す音だった。