魔法技術製造局が解散になるにあたり、エルヴィンは関係者を方々あたり、なんとか局員たちの再就職先を探した。

 時に頭を下げ、時に自らの資産を引き合いに出し、そして遂には全員の働き口をなんとか用意することができたのだった。

「エルヴィン局長、本当にアナタには世話になりっぱなしで……なんと感謝を伝えたら良いか」
「いえいえ、それはこちらのセリフです。ここは何の才能もなかった孤独な僕が、初めて見つけた居場所だったんです」

 別れを惜しむ局員たちに囲まれながら、所在なさげに笑うエルヴィン。

「でも、エルヴィン局長が俺たちの再就職先を交渉するために、資産のほとんどを使ってしまったって噂を聞いて……」
「なーに、大したことじゃないです。それに、僕もあてがあるんですよ」

 肩を落として心配そうにする局員たちを励ますように、気丈に振る舞うエルヴィン。

「そうなんですか! でも、俺たちはエルヴィン局長以上に魔法付与〈エンチャント〉の才能がある魔法師を知りません。なんせたった五年で局長まで登り詰めた人だ。きっと活躍できる場なんていくらでもありますよね!」
「そうだ、あんな魔法技術の価値も何も知らない若造の下につくより、エルヴィン局長に相応しい場所があるはずです!」
「こらこら、滅多なことは言うもんじゃないですよ」

 口々にアルフレート国王への不満を漏らす局員たちを、エルヴィンがたしなめる。
 そんな発言が聞かれた暁には、下手すれば死罪になってしまう。

「とにかく、皆さんお元気で。僕は僕で、ここで学んだ経験を活かして上手くやっていきます」
「本当に、ありがとうございます……!」

 涙ながらの別れを告げ、エルヴィンは魔法製造局を後にした。

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「アテはあるとは言ったものの……本当は仕事なんて一つも決まってないんだよなぁ」

 一人になったエルヴィンは、深いため息をつく。

 そう、局員たちの手前、強がりであんなことを言ってしまったが、再就職先はまだ決まっていなかったのだ。

 魔法技術製造局のために奔走するエルヴィンを快く思わなかったのか、若き国王アルフレートの嫌がらせで、どこに行ってもお払い箱だった。

 もちろん、国王が表立って一平民に嫌がらせをしたなんてことが明らかになれば、信用問題になりかねない。
 そのため確固たる証拠はないが、どこに行ってもエルヴィンの名前を見ると明らかに相手の態度がよそよそしくなり、仕事の交渉すらさせてもらえなかったのだった。

「このままじゃ明日の生活費すら危ういし、どうしたものか」

 肩を落として街を歩いている、その時だった。

「ーーやっと見つけたぞ。魔法技術製造局長のエルヴィン。いや、正確には『元』か」
「その声は……」

 背後から突然かけられた声。
 透き通るようなソプラノボイスには、聞き覚えがあった。

 振り向くと、そこには魅惑の美少女が立っていた。

「没落貴族のオリビア・ヘンジーが、君を迎えに来たぞ」

 美少女はそう言い放つと、長い髪をかき上げて、不敵に微笑んだ。