怖い上司の部屋の前。今日は平気。何言われようと。
「…失礼いたします…。美葉です。4番。」
扉を開けると真っ赤なじゅうたんに、シャンデリアのような明かりに囲まれて。
「美葉…。またやらかしたのか?今回はひどすぎる。どうにかなってもいいのか!!」
いつも以上に上司はピリピリしている。目が怖い。声も。私が悪いのだけど…。
「はい。覚悟はあります。私が犠牲にもなっていいから、お願いします!!助けをください。」
「あのなぁ、そんな簡単なことじゃないんだぞ。覚悟とかいつも美葉にはなくても。関係ないんだよ。これは、愛彩の命に係わるし、愛彩の未来そのものにも影響があるかもしれないんだぞ。美葉だけの問題じゃないんだ!!しっかり見守るのではなかったのかよ…。どうするのか。これはなかったことにして、愛彩の記憶を消すか。それか…」
「絶対に成功させるのでお願いします。」
涙が出そう。とても弱い私でも、今日は譲らない。美代とのこともあって。私の意見を通させていただきたい。
「しっかり俺の目を見て言えないのなら、どうでもいいってことだな。」
「違います!!どうでもよくない。今回は。今回は成功させるので。お願いします。私しか絶対にできないことです。」
まっすぐと上司の目を見つめる。いつも以上に涙が出そうになることをこらえて。胸が苦しくて。私は、今日こそ負けないって決めたから。
「いつも以上に美葉、真剣だな。関心。チャンスを与えてやるが、失敗したら次はない。いいな。」
「はい!」
勝った!今日は上司に勝った!!チャンスをもらったから、失敗なんてさせないんだから。いつもの私なら、ここまでできないだろうが、今日は違う。全く違っていて、できる気しかしていない。
「精一杯やらせていただきます。」
「そうか。がんばれ。」
上司の目は…さっきより穏やかで、少し笑っていた。いつもの上司は。怖くなかっただろうか。いつも私は負けていて。怖いイメージしかなかったけど、案外優しいのかもしれない。怖そうに見えても、思いやりのようなものは持っているものなんだ、と初めて気づかされた。私、いいことからかな。さっきと比べて、胸が苦しくない。むしろ、かるい。できそうな予感しかない。
「気を付けて。愛彩がぼんやりして違う道に行こうとした瞬間で時間を止めてあげるから。ベルが鳴ったらすぐに向かっておくれ。十分しか止められないから。時間に気を付けてね。」
「時間…ですね。わかりました。よく見ておきます。」
「そうだ。それがいい。しっかり見ておかないと、大変な目にあってしまうから。」
私の上司は何でもできる。時間が戻せるから、未来の事も見えているのだろう。記憶は消えないけどね。