僕、森屋健(もりやたける)は、今年で二十九歳。早くに家族を亡くし、高校生までは親戚に育てられた。その大きな寂しさが今でも深く刻み込まれていて、僕は人と深く関わろうとしてこなかった。

 けれど、そんな僕にも好きな人ができた。

 両想いになって、付き合うことができて、そして四年前に好きな人と結婚することができた。
 三年前に「子どもができた」と告げられる。生まれて初めて、誰かを〝守りたい 〟と思った。強く強く思った。

 僕たちは家族三人で、幸せな日々を送っていた。それはこれからも続くものだと思っていた。


 ……そのはず、だったのに。


「ねぇ、ぱぱぁ、ままはいつになったらかえってくるの?」

 三歳になった娘が布団に寝転がりながら、僕に素朴な疑問を投げかける。

「そう、だなぁ……」

 その傍らで娘を寝かしつけようとしていた僕は、一瞬言葉を詰まらせた。