シスターからさらに詳しく話を聞きながら、マリスは孤児院の中を見て回っていた。ここウーノの院には魔力を保有する子供は一人もいないはずだ。職員に魔力保有者が居らず対応できない為、もしここで魔力を持つ子が預けられることがあれば、すぐにアレックス神父の居るルシーダの教会へと転院させられる。

「それが、その……今年三歳になったばかりの女児なのですが、もしかすると魔力があるのではという話なのです」
「あら、後発の子がいるの?」

 ほとんどの魔力持ちは生まれて産声を上げた時からその素質を現わす。小さな身体で泣きながら、周囲にその力を誇示するのだ。家屋を振動させたり、物を倒したりするので、魔力を持たない親でもその素質に気付くことが多い。
 ただ、感情と魔力が連動しにくく、無意識の魔法発動をすることもなく成長する子が稀にいた。ある程度育ってから不意に魔法を発動させるケースを後発とは呼ぶが、実際のところは初動が遅かっただけで力自体は生まれ付いて備わってはいる。

「私達では判断が付かないもので、もし宜しければマリス様に診ていただきたいのですが……」

 その女児のいる場所でだけ、物が動いたり壊れたりしていることが頻繁にあるらしい。けれど、まだ誰もその瞬間に遭遇していないから判別できないのだという。もし魔力持ちならば対応できる院に預け直す必要があるが、シスター達は転院が必要か否かの判断しかねていた。

「ええ、構いませんわ」
「まあ、助かります――では、院長室の方にエリーザを連れて来ていただける?」

 マリスに協力への感謝を告げてから、シスターは傍に控えていた職員の一人に声を掛ける。
 半月ほど前に、エリーザを含む女児達の部屋の窓ガラスがひび割れているのに気付いたのが始まりだった。そのままでは危ないからとすぐに新しいガラスに入れ換えてもらったが、また二日もするとその部屋の窓に新しいひび割れが見つかり、最初は子供達の悪戯の可能性を疑った。けれどその後、熱を出したエリーザを一人別室で休ませたことがあり、その時もまた部屋の窓にひび割れが起こり、壁際に設置されていた棚が倒れていた。

「体調不良が引き金となったのかしら」

 確かに魔力持ちの可能性はあるが、それほど大きくはないのだろう。マリスなら、屋敷一つくらいは破壊できる自信がある。勿論、しないけれど。

 シスターに案内された院長室で、これまでの話を聞きながら応接用のソファーに腰掛けていると、すぐに部屋の扉が叩かれる音が聞こえてきた。「失礼いたします」と頭を下げながら入ってきた職員の後ろには、キレイに結わえたツインテールの女児が不安げな表情で立っていた。

「エリーザ、こちらへいらっしゃい」

 シスターに隣に座るよう言われ、恐る恐るとソファーへ座り込んだエリーザは、マリスとシスターの顔を不思議そうに交互に見回していた。その小さな女の子の落ち着かない態度をマリスは微笑みながらじっと見つめた。
 女児の身体が纏う力は確かに感じる。薄いベールに包まれている気配はあるが、簡単に剥がしてしまえそうな程に脆い。

「魔力持ちですね。それほど強くはありませんが」
「やはり、そうですか……」

 赤子の頃から面倒を見て来た子供と、卒院や養子縁組以外の理由で別れることになるとはと、シスターは潤んだ目でエリーザを見る。かと言って、ここでは彼女の力を受け止めてあげる術はない。世話好きな仲間に結って貰ったという髪を愛でるように撫でながら、エリーザに優しく声を掛ける。

「おめでとう。エリーザには魔力があるそうよ。神様が与えて下さった、尊い力よ」
「魔力? エリーは魔女になれるの?」

 きょとんと目を丸くしながら、シスターに問いかける。マリスの見立てでは、魔女として魔力を使う仕事に就けるほどの魔力量では無かったが、シスターは何度も頷きながらエリーザの頭を撫で続けていた。

「ええ、エリーザなら何にでもなれるわ」

 女児が院長室を出た後、シスターは寂し気に溜息を付いた後、マリスへと魔力診断の礼を述べた。他の子を害する前に気付いてあげれて良かったとホッとする反面、我が子のように育てている子との急な別れに戸惑っているようだった。

「急ぐようでしたら、一緒にルシーダまで連れて戻りますが」
「いいえ、お気持ちはありがたいのですが、子供同士でちゃんとお別れをさせてあげたいのです。ここの子供達は、突然の別れに敏感なものですから――」

 孤児院の性質か、子供達は仲間が増えたり減ったりすることに悪い意味で慣れてしまっている。増えるのを拒むつもりはないが、離れる時は互いに理由を理解した上でちゃんとお別れをさせてやりたいのだという。

 女児のことは近い内に職員が伴い、アレックス神父にお願いしに行くということだった。シスターが言ったように、大きな事故に繋がる前に判別して良かった。でないとエリーザは幼いながらに周りから畏怖の目で見られることだっただろう。