芹菜と紅華は、仲良く手をつなぎながら、国語教科室の前に辿り着いた。
 その教室の扉は開いていなくて、扉の小窓から覗くと、三人の女子生徒と一人の男子生徒がなにやら作業をしていた。
 紅華が、空いている手で扉を開くと、一番手前で作業をしていた女子生徒がこちらを見た。

「あの! 見学いいですか?!」

「いいよいいよ、一年生やね?」

「はい! よろしくお願いします!!」

「よ、よろしくお願いします」

 どうやら、一番手前にいた女子生徒は三年で部長だったらしく、軽く自己紹介をすると、部員の名前や、活動内容などを説明してくれた。
 創作をしている部員もいるが、ただ単に読書をしにくる部員もいるようで。
 女子二人と男子はノートやスケッチブックやタブレット端末で創作をしていたが、女子のうち一人は小難しい歴史小説を読んでいた。
 芹菜と紅華も自己紹介して、部長が握手を求めてきたから軽く握手をした。

「んん? なんか二人ともタコみたいなのがあるね? 何かやってたん?」

「あ、紅と芹菜、バンドやってるの!!」

 すると、他の部員たちもわいわい言いながら集まってくる。
 文芸部というと大人しい部類の人間ばかりかと思ったら、案外この学校の文芸部の部員は社交的のようだ。

「この学校軽音部ないよね?」

「えっと、あの、兄たちと独自でやっているんです」

「へぇ、ライブとかするん?」

「一週間後にライブあるから先輩も来てくださーい!!」

 そして、その情報も知りたいし、入部希望だし、と文芸部全員とラインを交換した二人は、満足げな表情で、部室の一角を陣取り、各々作業を始めた。
 芹菜は小説をカバンから取り出し、読み始め、紅華はタブレット端末を取り出し、何やら書き始めた。

「芹菜ちゃんは書かないの?」

 部長が芹菜に話しかける。
 芹菜は小説にしおりを挟み、部長に微笑みかける。

「私は、歌詞は書くんですけど、小説といったものは書かないですね。たまに紅ちゃんの創作のお手伝いはするのですけど」

「歌詞か、それもすごいな~。紅華ちゃんはどんなの書くん?」

「紅はBL小説書いてる~!!」

「「「同志か」」」

 女子部員たちの目の色が変わり、がやがやと紅華の作品を見ようと女子部員たちが集まってくる。
 そういう作品に抵抗はないが、好んでもいない男子部員と芹菜は苦笑した。

 紅華が輪の中心になり、置いてけぼりを食らった芹菜のもとに男子部員が近づいてきた。

「黒川さんはバンドではなにやっとんの?」

「え! あ、あの、ボーカルとギターを……」

 芹菜の答えに男子部員は目を見開いた。

「意外やな。大人しそうやからキーボードとかかと思た」

「よ、よく言われてしまいます……。歌うと人格が変わるとかも言われたりもしますので……」

「へぇ、僕も聴いてみたいからライブ行くわな」

「あ、ありがとうございます!」

 それから芹菜は、少しその男子部員と話をした。
 男子部員は笹原(ささはら)というらしい。
 三年で、副部長をやっていて、自分も小説はミステリーをよく読むんだ、小説はどんなのが好き? と芹菜に聞いてくる。
 芹菜は、自分もミステリーが好きで、特に京極夏彦の小説が好きだと答えた。

「京極夏彦か。渋いね。でも京極堂シリーズは面白いよな」

「はい! 京極夏彦さんの小説は読み終わった後の余韻が好きなんです。現実ではないような、ふわふわした感覚になって、余韻に浸っている時間が好きで」

「ああ、わかる。あの作品たちは独特な余韻になるよな」

 芹菜は、実は男性が得意ではない。
 小菊や、紫苑などの信頼している人物は大丈夫なのだが、それ以外の男性は、少し怖かった。
 それは、いつも不機嫌で怒鳴ってばかりいた父親や、暴力を振るってきた同級生の男子にされたことがトラウマになっているからだった。
 しかし、この笹原という男とは不思議と普通に談笑ができた。

「(芹菜が普通に男子と話してる。やっぱり、芹菜も成長したんかな? でも、副部長、絶対芹菜のこと狙ってる)」

 談笑している芹菜と笹原を見て、なんだか複雑な気持ちになる紅華。
 紅華は芹菜と紫苑が仲良くしているのを見るのが好きで、芹菜と紫苑の幸せを願っている。
 芹菜が幸せになるなら、相手が笹原であってもいいけど、でも、どうせなら大好きな兄に大好きな親友を任せたい。

 だから、芹菜が紫苑じゃない余所の男と話しているのは、なんだか嫌だった。