《デビュー作でありながら今年の文芸大賞受賞作『空虚』が若者から絶大な支持を得ている、話題の大学生作家​の春那 所以子さん。圧倒的な透明感と豊富な表現力、更には人間の本質……と言いますか、「そうそれ! それが言いたかったんだよ!」というまさに共感度100%の感性に、彼女を称賛する声が広がっています。『空虚』は、人生挫折を繰り返す落ちこぼれ大学生:サエコが、見た目だけでは好青年だけどフタを開けたら無職無一文のクズ男:マヒロと出会って、世の中の不条理を話し合い、お互いの空っぽな人生を埋めていく。そういったストーリーになっています。巷では、「マヒロの紡ぐ言葉に元気付けられた」「何も持っていない自分を嫌うのをやめてみようと思った」「自分を認めてあげたくなった」などといった感想があがっており、都内でも現在入荷待ちの書店が多数あるようです。さて、そんな大注目の春那 所以子さんですが、20歳の大学生ということ以外は謎に包まれています。SNSはやっておらず、受賞インタビューについても顔出しNG。噂によれば、猫のアイマスクを付けてきたという​───────……》










​──ブチッ。音が途絶えた。


水曜日の昼下がり。春那所以子の特集をしていたテレビ画面を突然真っ暗にした女は、俺と一度目を合わせると、何も言わず目を逸らし、目の前で湯気を立てるカップラーメンをズズッと啜った。一瞬の瞳が彼女の感情を物語っていた。こんなの違う、事実ではない。その瞳が、確かに訴えている。