「……あのさ、そんなこと、これに書いてた?」
「書いてるよ、アメリア……下の方、ほら、ここに……」
「…………」

 ゆっくりとアメリアが視線を落とした先、広告の下部には、確かにロームが説明した内容と一字一句間違いない文言が記されていた。
 要するに、彼女は単に参加できないと言われてカッとなっていただけで、重要事項を見落としていたのだ。しかも、ニーナに諭されても収まらなかったのだから、きっと友人に説明されても、さっきまでの状態では理解すらしなかっただろう。
 だが、今は嫌でも理解させられている。泳いでいる目と、滝のような汗がその証拠だ。

「申し訳ありませんが、メンバーが足りないようでは、参加承認はできません」
「じゃ、じゃあ、三人目がいればいいんだよね!?」

 くるりと背を向けたロームを見て、慌ててアメリアも振り返り、なるべく総合案内所中の人に聞こえるように、身振り手振りも交えて大声で言った。

「ねえ、ここにいる人、皆魔法使いなんだよね!? 誰か、チームからあぶれてる人とかいないかな! 特別にボク達のチームメイトにしてあげるから、遠慮なく手を挙げて!」

 正直なところ、アメリアはもう誰が手を挙げても、特別に仲間にする予定だった。
 人が多くみられる総合案内所は、全員が魔法使いでないにしても、半分以上は魔法に携わっているか、魔法使いだ。そもそも、サタナクアという街自体がそういうものだ。
 だから、彼女は人数の問題なら簡単にクリアできると思っていた。

「……あ、あれ? あぶれてる人、いないの?」

 だが、アメリアの提案に乗ってくる者は誰一人としていなかった。
 老人や老婆、子供ならまだしも、明らかに年齢からして脂の乗っている年代――いかにも傭兵といった出で立ちの男や美麗な女も含めて、誰も反応を見せなかったのだ。
 余裕のない表情で首を傾げるアメリアの耳に、さらに聞きたくない声が聞こえた。

「お節介かもしれませんが、トーナメントは明日から始まります。参加する気のある選手はもう他でチームを組んでいますし、そもそもエントリーしているのは名うての魔法使い達ばかりです。突貫でチームに入る人など、いないかと……」

 振り返ったアメリアの目は、驚くほど見開いていた。

「明日ァ!? 聞いてないよ、そんな……」
「それも、広告に記載してあります。本日がエントリー期間最終日であるとも、です」
「……ぐ、ぐぬぬ……!」

 こうなると、アメリアはどうにかしてアイデアを捻りだそうとするしかない。
 するしかない、と書いたのは、既に打つ手がなくなっているからだ。

「ねえ、アメリア、もう帰ろうよ……」

 ニーナが彼女の体をゆすっても、強情な少女は一向に諦めようとしない。

「そんなわけにいかないよ! ママにもパパにも大見得切って、有名になって帰ってくるって言ったのに! 人生を変える最後のチャンスかもしれないんだよ!?」
「ご両親と喧嘩して、家出してここにきたから、プライドが邪魔しちゃうんだよね……?」
「うぐっ! ニーナ、正論とか今はいらないから――」

 言葉のナイフが胸に刺さったアメリアは、よろめきながらも反論しようとした。
 しかし、彼女のナイフの刃先は、たちまち変わった。

「――田舎者がぎゃあぎゃあ騒ぐなよ。魔法使いの品位が落ちるじゃないか」

 明後日の方向から聞こえてきた、棘のある言葉によって。

「……誰さ、今喋ったの。もう一度、言ってみなよ」

 明らかな悪意を含んだそれを、気が立っているアメリアが聞き逃すはずがなかった。
 ニーナの制止も振り切った彼女がぎろりと周囲を睨みつけると、明らかにこちらを見つめている一団があった。カウンターから少し離れたテーブルに座る、三人の男だ。
 しかも、高級そうなズボンやシャツ、アクセサリーを身に纏った彼らは、ただ喧しい連中を見ている顔つきではない。少女二人が右往左往している様を、侮蔑を含めた目で見ている。
 そんな男達に挑発されて黙っているほど、アメリアはできた人間ではない。乱暴な足取りでテーブルの前まで来た彼女は、ニーナが肩に手をかけて「待って、落ち着いて」というのもかまわず、一番手前の、茶髪の優男を見下ろした。

「もういっぺん言ってみろって、ボクは言ったんだけど」

 苛立ちの感情を真正面から浴びても、彼らはまるで動じなかった。見たところ、男達はアメリアより三つ、四つほど年上で、年齢的、経済的な余裕も感じられた。

「俺だけじゃないよ。ここにいる全員が、そう思っているさ」
「タリオンに同感だな。常識を知らない子供が喚いてばかりで、嫌になる」

 優男――タリオンの仲間が同調すると、アメリアは顔を真っ赤にした。

「誰が子供だよ! ボクはもう十六歳だぞ! ニーナは十七歳だ!」

 アメリアは確かに怒っているのだが、彼らは委縮するどころか、アメリアとニーナを前にして、手を叩いて大笑いした。

「十六歳と十七歳か! ははは、ソロモニアならまだしも、『魔法の街』フラウロンなら、その歳じゃあまだ魔法学院の学生止まりだよ!」
「しかも独学の陳腐な魔法で、品格高い『エルダーワン・トーナメント』に参加するなんて、恥知らずもいいところだ! この大祭がどんなものか、知っているのか?」

 嘲笑しながら立ち上がったタリオンの背丈は、ニーナほどではないが、アメリアより高かった。さっきまで見下ろしていたアメリアは、相手の背に少しだけたじろいだようだった。

「ソロモニアで最も偉大で高貴な魔法使いを決めるんだ、君達のようなぽっと出の田舎者が参加するだけで獣臭さが移ってしまうんだよ! 回りくどい言い方が嫌なら言い換えてやろう、さっさと尻尾を巻いて田舎に帰るんだな!」