「え、ええとですね……」

 さて、ここまで話を一方的に突き付けられた受付嬢は、ほとほと困った様子だった。
 栗色のショートヘアで、くりくりとした目と齧歯類を彷彿とさせる大きな前歯。総合案内所の制服である紺色のワイシャツとプリーツスカートの上から、青と白のツートンカラーのローブを身に纏った彼女に、この問題を解決できるようには見えなかった。
 これがもし国を挙げた一大イベントであれば、彼女の一存で物事を決められるはずがない。だからといって、突き返すわけにはいかないはずだ。
 だからこそ現実として存在する問題を伝えたわけだが、アメリアは当然納得しない。

「ねえ、ボク達、『エルダーワン・トーナメント』に参加する為にサタナクアの街にきたんだよね。このソロモニア帝国の東の端っこ、地図にも載ってないポッカ村からさ? 超絶可愛い女の子二人の長旅の結果を、おばさんの一言で終わらせちゃうの?」
「お、おば!? 私、まだ二十代なのですが……!」

 田舎から来た、とだけ言えばいいものの、余計な一言で受付嬢のこめかみに青筋を立たせたアメリアは、どうやら人を煽る才能には長けているようだ。
 反面、ニーナがそれに同調するようなことはなく、慌てた調子で友人を止めようとした。

「だ、駄目だよ、悪口になってるよ!」
「でも事実じゃん! 二十代ってわりとおばさんだよ?」

 まったく悪びれないアメリアの前で、受付嬢はごほん、と大げさに咳払いをした。

「……申し訳ありませんが、事情はちゃんとありまして……」
「あ、もしかしてボク達みたいな田舎者じゃあ、ワルド貨幣なんて持ってなくて物々交換でしか取引できないんだろ、とか思ってる? だったら残念だね、道中で魔物退治とか草むしりとかのアルバイトをして、参加費くらいはしっかり稼いできたんだよ! ほら!」

 アメリアはにやりと笑って、腰に提げたポーチから小袋を取り出し、中身をカウンターにぶちまけた。じゃらり、と山のように積まれたのは、ソロモニアの通貨、鈍い金色に光るワルド通貨だ。
 その量はなかなかのもので、これで足りないということは決してなさそうだった。
 だが、受付嬢はこれまた困った調子で、首を横に振った。

「えっと、参加費の問題ではなくてですね……」

 普通はこうなれば、何かしらの事情があると思って相手の話に耳を傾ける。
 しかし、すっかり熱くなったアメリアの中に、もう無事平穏に進めるプランはなかった。どうにかして自分の提案を押し通す、めちゃくちゃな理論武装だけが頭の中にあった。

「じゃあ何なのさ、ボク達が人間族じゃなくて、『獣耳』の獣人族だからダメだって言いたいの!? 魔法技術が発達してるソロモニアの都市、サタナクアで、そんな古臭い価値観が横行してるなんてショックだなー!」

 それこそ、自分の体的特徴まで利用するのだから、これではもはやクレーマーの類だ。

「耳は、耳は関係ありませんって!」
「旅行に来てる人達に言いふらしちゃおっかなーっ! 全ての魔法使いの憧れ、ソロモニア最大のお祭りが『ヘンケン』と『サベツ』でいっぱいだって……」

 慌てる受付嬢と、自分の耳を掴んで騒ぐアメリアを見て、とうとうニーナが口を挟んだ。

「ち、違うよ、アメリア! 私達が参加できない理由、ちゃんと言ってくれてるよ……」
「え? なに? 何て言ってるの?」

 ニーナに半ば羽交い絞めにされるような姿勢になって、アメリアはようやく正気に戻ったらしい。とはいえ、周りの冷たい視線にはまったく気付いていないようだ。
 受付嬢もやっと話を聞いてもらえると思ったのか、もう一度大きく咳払いをした。

「……ゴホン。大変申し訳ありませんが、アメリア・イグザクス様ならびにニーナ・エンデ様。お二人は個人での参加資格も参加費も条件を満たしています。ですが――」

 少しだけ間をおいて、彼女は告げた。

「――人数が足りません」
「……は?」

『エルダーワン・トーナメント』に参加できない、本当の理由を。
 さっきまでの威圧感と高圧感はどこへやら、アメリアはたちまち呆けた表情になった。

「改めて、受付担当の私、ローム・パッショネイムがお伝えさせていただきます。『エルダーワン・トーナメント』は原則として、最低でも三人以上のチームを構成して参加することが条件となっています」

 小さく頷くニーナの反応を見ながら、受付嬢ことロームが話を続ける。

「トーナメントについて説明いたしますと、第一予選として総当たり戦の魔法使い同士の決闘を行い、そこから更に様々な競技で点数を稼ぐ第二予選を経て、最後に残った八チームによるトーナメント戦を行います。その中の第一予選では、百年前からの習わしに則って、最大三回の一対一での試合を執り行います」

 淡々と説明するロームの前で、アメリアの顔が次第に青くなってゆく。
 金でも、ましてや差別的要素でもない至極真っ当な理由が、つらつらと並べられてゆく。

「なので、三人以上のメンバーでチームを結成し、そこから三人の選手を選んでもらい、試合に出てもらうのが基本的なルールです。しかし、今のお二人に、追加のメンバーがいるとは思えませんが?」

 ここまで伝えて、ロームはつんとした顔で口を閉じた。
 アメリアはというと、焦りと戸惑いが入り混じった顔で、ゆっくりとニーナに向き直っていた。幼馴染が乱暴をしないと思ったのか、ニーナは既に彼女を解放していた。