「……悪人、だよね?」
「観点による。圧制者からすれば簒奪者、奴隷からすれば英雄だ。俺は、自分を英雄だの、救世主だのと思ったことはないがな」

 アメリアの問いを最後に、ヴァルカンは何も言わなくなった。
 腕を組んで、椅子に深く腰掛けた彼の態度が、これ以上海賊について語る必要はないと言っているような気がして、二人は追及するのをやめた。

「互いについて十分に知れたな。アメリア、『魔法』と『魔法使い』について説明しろ」

 だから、ヴァルカンが話題を変えたのにも、さほど驚きはしなかった。
 ここでまた、アメリアの中に疑問が生まれた。
 案内所でタリオンに「これは決闘である」と言わせて、フェアな状況に持ち込んだ彼なら、魔法使いについて――魔法について知っていると考えていた。
 だが、今思い返してみれば、彼はアメリアが放った魔法に少し目を丸くしているようだった。これだと、どうにも辻褄が合わないのだ。

「それはいいけど、さっきは魔法使い同士の決闘のルールを知ってたじゃん。魔法にも詳しいわけじゃないの?」

 彼女の質問に対して、ヴァルカンは何を聞いているのかと言いたげな顔を見せた。

「あれはカマをかけただけに過ぎない。一般的な決闘の手順に従うなら、ああなるだろうと踏んだだけだ。それよりも早く説明をしろ、船長命令だ」
「はいはい」

 気が付くと、アメリアだけでなく、ニーナも隣で説明する姿勢に入っていた。

「じゃあ、まず魔法使いについてね。普通は見えないけど、ボク達の周りには『マナ』っていう不思議なエネルギーがあるんだ。それを呼吸するみたいに体に取り入れて、循環させて、まったく別の力として放出させる才能を持つ者が、魔法使いって呼ばれるんだよ」
「そのマナを放出する時に、呪文を唱えたり、念じたりすることで特別な力として使えます。これが、えっと、簡潔に説明した『魔法』です」

 ざっくばらんとした説明だったが、ヴァルカンにはおおよそ理解できた。
 ヴァルカンには感じ取れないが、自分達が今いる世界の中には、『マナ』がある。空気のように目には見えないが、確かにエネルギーとして存在している。
 それを手に取り、掴み、あるいは肌から集め、大気中のエネルギーではなく、自分のものとする。そして火や風、雷、水、もしくはまったく別のエネルギーとして用いて発動させる――これが、魔法と呼ばれる力なのだと。

「どんな力にもできるのか?」
「んー、才能だとか、やりようによってはね」

 何も知らない人に、自分の知識を教えるのが楽しいのか、アメリアの声がどことなく楽しい調子になってきた。ニーナも、どういうわけか少し恐怖感が薄れているようだ。

「魔法はね、基本的にマナをそのまま放出して使う無属性から、火・水・風・土の『四大元素』って呼ばれる属性を付与する魔法に派生できるんだ。指先から火を出したり、風を巻き起こしたりね。怪我の治療に使われるのは、無属性にあたるかな」
「えっと、ちなみにまったく四大元素と関連しないですが、特異な変化を齎す場合もあります……生まれ持った才能や血筋に依る点が多いので滅多に見られませんが、いずれも強力なんです。原初的な魔法で、『始祖魔法』と呼ばれます」
「二人とも、全ての属性魔法が使えるのか」

 ヴァルカンが問うと、二人は首を横に振った。

「ううん、ボクの魔法は四つの属性全部を使うけど、ニーナの使える魔法は土属性だけ。でも、一つしか使えないから弱いわけでもないし、全部使えるから強いわけでもないよ」
「どこかで学んで、魔法を得たのか?」
「まさか。ボクもニーナも、独学で勉強したんだ」

 鼻をピン、と弾いたアメリアの顔には、積み重ねてきた経験を表す自信に満ちていた。

「魔法は先天的に使えたり、独自の修行によって会得したりとかあるけど、だいたいの人が大魔法学院に入学して魔法を勉強することだね。二十歳までなら入学金と授業料を払えば三年間は受講できるし、卒業すると自動的に魔法使いの公的資格を得られるんだよ」
「公認と非公認の差は、あまりないのか」
「そうでもないよ。名乗るのと資格を持ってるのとじゃ、信頼性がダンチだね」

 少し気にしているようなそぶりと一緒に、アメリアが肩をすくめた。
 さっきまでの自慢げな顔がちょっぴりくすんだのも、ヴァルカンは見逃さなかった。

「実際問題、授業料は大金持ちじゃないと払えないほど高いし、その価値がある。さっきのタイロンだっけ、みたいに、入学をステータスと勘違いしてる奴も多いくらいにはね」
「タリオンだよ、アメリア」
「どっちでもいいよ、あんなの」

 今度はニーナがアメリアの肩に手をかけたが、彼女は口を尖らせた。幼馴染の訂正には、あまり自分の生まれや格差を気にしない方がいい、という意味合いも込められていた。
 一方、道理でタリオンがあれほど傲慢なのかと、ヴァルカンは静かに納得していた。
 魔法学院とやらで魔法を学ぶというのは、つまり金銭的な余裕と、世間的に見た高い立ち位置を表している。この国が(推察ではあるが)人となりより魔法を見るとするなら、そこを卒業しただけで一種のステータスとなりうるのも当然だ。
 だからきっと、アメリアは心のどこかで、魔法学院で悠々自適の学生生活を送ってきたであろうタリオンに、苛立ちを覚えていたのだろう。田舎の片隅で、独学で魔法を勉強するしかなかった自分と見比べてしまったのかもしれない。
 とはいえ、そんな彼女のやさぐれた内心を指摘するほど、ヴァルカンもデリカシーがないわけではなかった。