こんにちは。
 僕はタクヤです。
 いつもコウタ目線で、勝手に話が進んでしまうので、今回は僕がお伝えしますね。

 アダルトショップの店員マリアさんに紹介されて、質屋 満々金にパソコンを買いにきたまでは良かったものの、結局お金が足りなくて、何故かバイトをすることになりました。
 バイトを無事にやり遂げたら、パソコンが貰えるそうです。コウタが言うには、すごく良いパソコンらしいんだけど……。

 正直、危ないバイトだと思ったので、僕は断るつもりでした。だけども、目の前で太った男の人がラリアットされて、吹き飛ばされて……。とても断る状況ではなくなってしまったんですね。
 はぁ……。溜め息がでます。

 今僕は、洋風の部屋に一人でソファーに座っているんだけど、ここに連れて来られる前が、すごく不安でした。
 黒いバンに乗せられて、二十分ぐらいかな。その間に、あの竜二という人。
 トランクスにラリアットしていた竜二という人に、スマホと財布を取り上げられ、他言無用を約束させられました。
 
 その瞬間、後悔したのを覚えています。
 危ないことに巻き込まれてる感じが、すごくしました。
 コウタは、財布を渡すのを嫌がったので、竜二さんにゲンコツで頭を殴られていました。
 五千円しか入ってないのに……。

 この竜二という人。
 リーゼントで目つきが鋭く、筋肉隆々で暴力的なんですが、案外優しいところがあって、僕が塞ぎ込んでいると、心配するなとか、何かあったら呼べとか言ってくれるんですね。
 この人、モテるんだろうなぁという感じがしました。やっぱり男は、いざという時、頼りになるほうが良いですよね。竜二さんは、そういうタイプだと思いました。
 普段やかましいだけのコウタとは大違いです。
 おかげで、随分と落ち着きました。

 車が目的地に着くと、僕とコウタは雑居ビルの中の更衣室に連れていかれました。そこで着替えるように指示をされ、白いワイシャツに着替えました。
 ところが、このワイシャツ。すごく薄いんです。なので、透けてしまって、乳首の位置がまるわかり。
 コウタがニヤニヤしながら、指でツンツンしてくるので、真面目に怒りました。この変態って。
 そんなコウタは、ボーイの格好をしています。
 一緒に働くもんだと思っていたのに、どうも役割が違うようです。やはりイケメンにしか、出来ない仕事なのだと理解しました。

 そして、竜二さんに呼ばれて、僕達は別々の部屋に通されたわけですが……。
 嗚呼……。さっさと終わって欲しい。
 相手の機嫌を損なわないように、話を聞いて、笑っていろとだけ言われましたが、果たして出来るのでしょうか?

 
 みなさん、こんにちは。
 この物語の主人公コウタです。

 タクヤと別れてから、十五分が経ちました。
 その間、俺が何をしていたかというと、カウンターの中で、ずっとグラスを磨いておりました。それも、未使用の綺麗なグラスをです。
 何をさせられているのか、解りかねた俺は、隣でカクテルを作っている竜二さんに質問したのですが、返事はだまって働けでした。
 もちろん素直に働きます。

 俺が連れて来られたのは、一言でいうとキャバクラです。大部屋にソファーで囲いが出来ていて、四組のおっさん達が、お姉さん相手に酒を飲んでいます。
 たしか、まだ三時ぐらいなはずです。
 うちの父親とは違って、大層ご身分の高いおっさん達なのでしょう。羨ましい限りです。

 壁に備え付けられている電話がなり、竜二さんが応答します。その後、持っていけと言われてウイスキーのセットを銀色のトレーにのせて渡されました。
 いよいよです。ここにくる前にタクヤが連れていかれた部屋から注文が入ったのです。

「いいか。じろじろ客の顔を見るなよ。お前の友達の様子だけ、さりげなく確認してこい。トレーはテーブルに置いて、そのまま帰ってこい」

「了解!」


 皆さん、こんにちは。
 タクヤです。

 あれから、僕の部屋に二人のおじさんが入って来ました。一人は髭をたくわえた、背の高いスーツ姿。
そして、もう一人は、顔中脂でネバネバしていそうな、太ったおじさんです。
 
「いらっしゃいませ」

 咄嗟に出たのが、いらっしゃいませでした。
 この状況で、よく声が出たなと思います。
 二人のおじさんは、部屋に入るやいなや服を脱ぎはじめました。脱ぎながら、今日はルイ君は? とか聞いてきます。さっぱり誰のことか分からずに黙っていると、ブリーフだけを身に付けたおじさん二人が、僕を挟むように両サイドに座りました。
 もう生きた心地がしません。

「君。新人さんだね」

 髭のおじさんは、僕の首筋に指を這わせながら言いました。心臓が飛び出しそうなくらい、激しく鼓動します。

「今日が初めてです。よろしくお願いします」

「うん。よろしくね。緊張してる? リラックスしてね」

 髭のおじさんの指が耳の裏を通りすぎたり、後ろ髪をかすめていく度に、声が出そうになります。
 これは愛撫です。僕はおじさんに愛撫されています。変な感覚に必死に耐えていると、耳元で荒い息づかいがしました。その瞬間、いやな感触がして身体中が震えました。太ったほうのおじさんが、僕の耳を舐めたようです。
 早くも限界を感じました。
 おじさん二人を振り払って、外に飛び出したい衝動に駆られます。
 
「初ねぇ。初ねぇ。ウイウイねぇ~」

 太ったおじさんは、興奮しているようです。
 そして勢いそのまま、今度は僕の胸をまさぐります。
 二時間なんて持たないと思いました。
 必死に身体をくねらせて、おじさん達の手から逃れようとします。時には肩や肘を使って抵抗するのですが、おじさん達も、負けじとスピードを速めてきました。
 無言の攻防が続いていくうちに、カンフー映画の組み手みたいな絵面になってきます。
 しかし、相手は二人組。
 ついに力尽きようとした時に、ウイスキーのトレーを持ったボーイが部屋に入ってきました。
 
 コウタです。ノックもせずに勝手に入って来たのは、さすがとしか言えません。

 コウタははじめこそ、ぎょっとした顔をしましたが、すぐに無表情になりました。そして何かを悟った、お地蔵さんのような神々しい顔付きに変わります。
 僕はこの顔を何度か見たことがあります。
 コウタは笑いを必死にこらえるとき、この顔をするのです。
 許せない!
 僕がこんな目にあっているのに!
 絶対あとで蹴り殺します!
 法律が僕を止めようが、絶対にです!

 コウタは三十秒ほど滞在して出ていきました。
 うわ~! コウタ助けてくれ~!


 皆さん、こんにちは、
 コウタです。

 いや~世の中には色々な人がいるもんですね。
 俺がウイスキー持っていっても、あのおじさん達、平気なんだもん。
 普通ブリーフしかはいてなかったら、焦りません?
俺だったら、速攻で隠すけどなぁ……。
 まあ、俺達の常識が通じない連中なんだろうね。

「どうだった? 無事か?」

 戻るなり竜二さんが聞いてきます。
 無事とは、どの状況を指すのか判断つかない俺は、見たままを言いました。

「裸のおじさん二人に、めっちゃ触られてました」

「え? もう服脱いでんのか。いつもより早いな」

「なんか、タクヤが、食べられてしまいそうな気がするんだけど……」

「あいつら、今から酒を飲むはずだ。しばらくは大丈夫だと思うが……。ちょっと待ってろ」

 おしぼりの束を掴んで、竜二さんが走って行きました。
 ああ、どうしよう。
 タクヤが帰らぬ人となったら、どうしよう。


 みんな元気か?
 俺は竜二だ。

 たく、ガキ二人の面倒見るのは大変だぜ。
 だけど、オヤジが約束したことだ。しっかり守ってやらないとな。

 さて、ドアの向こうから、話し声が聞こえてくるな。
 よしよし、今は酒を飲んでいるようだ。
 おっさんどもが絡み出したら突入するか……。
 それでも、大して時間は稼げなさそうだな~。
 ルイの奴が、早めに到着してくれればいいが……。
 はぁ……。こういう仕事は苦手だぜ……。

 
 み、みなさん、こんにちは!
 タクヤです。

 今、何分経ちましたか?
 僕はもう、もちませんよ?

 おじさん達は、お酒を飲みながら談笑していました。お酒を飲んでいる間は、気持ち悪い手の動きも止まります。このまま時間が過ぎればいいと思いましたが、そうはいきません。
 酒を作れと、太ったおじさんが命令してきます。相当アルコールに弱いのでしょう。顔はもう真っ赤です。
 ウイスキーなんて普段飲まないので、おじさん達がやっていたのを真似しながら作ります。
 出来ました。氷を入れて混ぜただけです。ロックというやつでしょうか?
 今はどうでもいいですね。

「かぶれ」

「はい?」

「それを頭からかぶれ」

 せっかく用意したのに、かぶれとは。
 悪酔いする、最悪なおっさんですね。
 僕が躊躇していると、今度は髭のおっさんが、こうやるんだよって言いながら、ボトルの中のウイスキーをかけてきました。もちろん頭の上からです。

「うわ! やめてください!」

 目を開けていられません。
 おっさん二人は楽しそうに笑っています。

「おーい! おしぼりだ」

 どっちかの、おっさんが大声で叫び、しばらくして、ドアから誰か入ってくる気配がしました。
 薄目で確認すると、床に飛び散ったウイスキーを拭いている人がいます。この背中は竜二さんです。
 助けて! と声が出そうになったとき、身体の異変に気がつきました。

 服がないんです。
 さっきまで着ていたワイシャツが、どこにも見当たりません。だけど、手首の辺りに袖の一部だけが残っています。どうやら、液体に溶ける服だったようです。
 自覚した途端、僕はパニックになりました。
 呼吸が苦しくて、喘いでいると、顔を拭いてくれる柔らかな感触が……。
 竜二さんが僕の顔を拭いてくれたようです。
 ようやく目をあける事ができました。

「おい。もういいぞ。ひっこめ」

 そう言われて、竜二さんは頭を軽く下げて出ていきました。出ていく時に、何かを含むような視線を僕に投げかけます。
 事前に打ち合わせなど無かったので、竜二さんが何を伝えようとしたのか分かりません。
 まさか、もう少し我慢しろという事なのでしょうか。

「さて、続きを楽しもうか」

「おい。下も脱いでくれよ」

「え? それは勘弁してください」

 言ってる端から、おっさん達がズボンを脱がしにかかります。

 終わる。
 やっぱり断れば良かった。
 こんな目にあうなら、まだ殴られたほうがましだ。
 誰でもいい、助けて欲しい。
 この腐臭のするゴミどもから、僕を引き剥がして欲しい。
 静ちゃん。
 最近、冷たくしてごめんね。
 ちょっと身体の調子が悪かったんだ。
 また、会いたいよ。
 会って、手を繋ぎたい。

 異常な音量で警告音が鳴り響き、次に照明が全て消灯する。突然の暗闇の中で、落ち着いた女性の声が繰り返し流れた。

『火事です。火事です。落ち着いて避難してください。火事です。火事――――!』

「なんだあ? どうなってる!」

「誰か説明しろ!」

 今しかないと思った僕は、床に身体を投げ出して、必死に泳ぎます。だけど、暗闇は深く出口の方向を見失ってしまいました。
 せめて、おっさん達の声がする方から、出来るだけ離れようと距離を取ります。あっという間に壁にぶつかりました。これ以上進めず、もちろんドアのノブも見付かりません。
 反対側に行くべきか悩みましたが、もう動く気力が出てきません。移動中に捕まったらと思うと、心がすくみました。
 だから、ただ両足を抱えて、部屋の隅でうずくまりました。助けて、助けてと祈りながら。

 どれくらい経過したのでしょう。
 ぱっと部屋の灯りがつきました。眩しくて顔を背けます。
 中央のソファーに、おっさん達が相変わらず居て、ドアが見えるのはその向こうです。
 どうやら反対側に逃げてしまったようです。
 やってしまったと思いました。

 すぐに太ったおっさんが、首を後に倒して僕を見つけました。下品な笑いを顔面に浮かべます。こっちに来るように手招きしてきました。

「早く来いよ。ボケ。高い金払ってんだよ!」

 僕は、同姓愛者を差別するつもりはありません。でも、こいつらは人間のクズだと思いました。
 ふつふつと込み上げて来る感情が、怒りという事を認識するのに時間はかかりません。
 ぶん殴る。
 そう決めたら手と足に力が戻ってきました。
 どうなろうと知ったことか。
 全然、誰も守ってくれないじゃないか。
 こいつらの気味の悪い薄ら笑いを、今すぐ止めてやるよ!
 
 ドアを叩く音が聞こえる。
 入って来たのはコウタだった。

「大変お待たせ致しました。ルイさんが到着されました」

 いつもとは違い、うやうやしく頭を下げ、コウタは誰かをエスコートする。
 コウタに続いて入ってきたのは、線の細い男性だった。地肌にガウンといった格好で、風呂上がりのような出で立ちだが、放たれるオーラが尋常ではない。
 美少年だけでは生ぬるく、絶世と言わなければいけないと思った。

「おおおお! ルイ君! 待ち焦がれたよ!」

「さあさあ! こっちきて。こっちきて!」

 ルイと呼ばれた人物は、花道を進むがごとく優雅に歩き、おじさん達の腕に抱かれていく。その一連の動作が、全てスローモーションに僕には見えていました。

「あ、ひょっとして、新人さんを苛めてたでしょ?」

「いやいや、そんなことしないよ」

「本当に?」

「本当、本当。もう、ルイ君勘弁してよ」

「ふ~ん。まあいっか。君、ありがとう。もう大丈夫だよ」

 ルイさんは、僕を見て片目をつぶりました。足の力が抜けて、倒れそうになります。僕を支えてくれたのは、コウタでした。

「ごめんな」

 小声でコウタが言ってきます。
 別にコウタが悪い訳じゃない。そう言おうとして、急に目眩を覚えました。
 ドアから竜二さんが入ってくるのが見えます。
 はあ……と息を吸って、二人に支えられながら、悪夢のような部屋を抜け出したのでした。