十七年、生きてきて恋をしたことがなかった。いや、それどころか、気を許せる人もいない。
 私の世界はいつだって敵か、無関係で成り立っていた。はずなのに。

 目の前で喧嘩をする狐と人魚に、胸を高鳴らせ、なにかが始まる予感を感じ取る。地球滅亡を待つだけだったこの身体の奥で、私の中になにかが産まれる。
 今朝の私はこんなこと予想も出来ず、いつも通り滅亡を待つだけだった。

今から遡ること何十時間も前。

 死ぬのは、多く見積もって八十年後。私が今十七歳だからそれくらい遠い未来で、そうじゃなくても少なくとも五十年は生きられる。

 そして、私が死ぬまで時代は目まぐるしく変わっていく。
 まだ車は飛んでいないし、ロボットが一家に一台なんて時代でもないが、私がおばあちゃんになる頃にはもしかしたらあるかもしれない。そういう未来が。
 そんな未来の中で、私は自分の子どもと、そして孫に囲まれて幸せな老後を送っている。

 そういう未来を夢見ていた。

 青い空に入道雲がにょきにょきと伸びて、蝉の鳴き声が聞こえてくる。人肌ほど熱い空気が身体中にまとわりつく、穏やかな田舎の夏。
 平和な空に突如現れた大きな黒い丸。あれの正体は、ブラックホール。