これまでの経緯について、真実を明かす処世(しょせ)極楽の荘厳(はるかなる大地)や婆羅門が出来た成り立ちを語り終える。


「――とまぁ、そういった経緯によって、この世界は維持されておる! じゃから、初代がいなければ、とっくに儂らは滅んでおるし、5つの大陸も存在せん。それだけ錠光(じょうこう)様は、偉大な方なのじゃ! しかしながら、その場所へ修練場を設け、婆羅門と名付けたのは栴檀香(せんだんこう)様・善山王(ぜんせんおう)様の2人。言ってみれば、現世の初代と言えようのう」

 錠光亡き後、900年。心痛ましい乱世の時代ではあったが、人工遺物の効力により5大陸の消滅は免れた。そして過去の初代、現世の初代がいたからこそ、自分達が生きているのだと語る。また、生命力を酷使していたのは、須弥山の大地を存続させる上で必要なこと。そのような理由から婆羅門を治め、後世を安寧へ導くためには後継者が必要という。

「『それだけ偉大な方と言うのは、良く理解しました。大僧正様が五衰を迎え、命の(ともしび)が消えかけているのも……。でしたら、なぜ世代交代を行わないのですか?』」
「『そうです。こう言ってはなんですが、記憶の回復は不確かなものです。楼夷亘羅(るいこうら)の覚醒を待つより、別の方を探しては如何でしょうか?』」

「『うむ……。2人の言うことは、最もじゃ。とはいえ、この婆羅門を担う聖者は、今のところ育ってはおらん。世代交代したい気持ちはあるが、それは自らの責任。儂が不甲斐ないのじゃよ……』」

「「『大僧正様……』」」

 いまに至るまで、後任を育成出来なかった自分を責める処世。そうした事も一理あるが、過酷な修練に耐えきれず、逃げ出す者が多かったのも事実。その言葉に、切なげな想いで呟く2人。

「『……そういった事情、お気持ちは十二分に伝わります。それに、調査の目的や楼夷(るい)を後継したい想いも……。ですが、なぜ今になって私達をお呼びになられたのですか?』」
「『もしかして……。天部の地位を得たこと、そこに何か関係があるのではないでしょうか?』」

 それぞれの疑問を投げかけ、思いを伝える2人。

「『そうじゃのう。吒枳(たき)の考えも満更、間違いではない。それに伊舎那の言い分には、最も重要な理由がある』」

「『理由……? それは一体』」

 重要なこと。それは、楼夷亘羅に関連している事ではないのか? そう思い、聞き耳を立てる伊舎那(いざな)

「『それはじゃ。数十年前の儂というのは、それはもう後継者を探すため、熱心に力を注いでおった。ところが、突然のお告げにより、選ぶことを断念するしかなかったのじゃ。本来なら2人の前にいるのは、8人目を迎えた統治者だったろう』」

「『……8人目』」
「『そのように言われれば、そうですね。ですが、18年もの間、どうやって須弥山の大地を維持していたのですか?』」
 
 思い呟く伊舎那。瞬時に状況を理解する吒枳。よくよく考えれば分かること。唖然とした表情を浮かべ、お互い顔を見合わせる2人。

「『なに、簡単なことじゃ。それは人工遺物の複製品により、何とか対応しておった。……じゃが、それも今となっては、負荷に耐えきれず粉々に砕け散ってしもうたがな……』」
 
「『――ではまた、複製品を使えばいいじゃないですか?』」

 そのような物があるなら、再び代替品をあてがえばいいのでは? そう提案する吒枳。

「『それに代わる代替品など、宝物庫にはもうない。あれは、最初で最後の宝珠。砕けてから既に、2年の歳月を迎えた。身命を捧げる使命は期間を満了して、もう一刻の猶予もない! もって、あと2年……。それまでに、楼夷亘羅の力が回復してくれればいいのじゃが……』」

「「『そんなぁ……』」」

 切なげに想いの内を語る処世。肉体は限界に達しているも、数年なら何とか持ち堪えることが可能という。とはいえ、それ以上の時が過ぎれば、身体は朽ち果て星屑となり消えてゆく。

「『――それならば。全ての力を取り戻さなくても、楼夷(るい)には凄い力があります。その間に、大僧正様の力を温存して、何とか凌ぐことは出来ないのでしょうか?』」
「『そうでした、楼夷亘羅には失われた物を再生する。そんな不思議な力があり、僕はこの目で状況を垣間見ました!』」

 不可解な能力を持つ楼夷亘羅。その力があれば、大地を維持させることが可能なのでは? 2人は身を乗り出し処世へ問う。

「『――なるほど、その事も知っていたか? 確かにあの万物を操る能力は素晴らしい。しかし、いくら王の資質があろうとはいえ、全ての力を取り戻せない楼夷亘羅は儂よりも劣る。もって期間は、ひと月が限界であろう』」

 万物を操る能力。その力は精々、花や樹木を潤わせる程度だという。果たして楼夷亘羅の力は、大地の全てを満たす事が出来るのだろうか……? それは言うまでもなく、過酷な修練を積む処世でさえ、不可能な所業。易々、力なき者が行えるはずはないと説く。 

「『では、大僧正様がいなくなればどうしたら?』」
「『そうです。僕達だけでは、どうする事も出来ません……』」

「『2人共、そんな顔をせんでもよい。4つの大陸を治める聖天に会い、人工遺物を集めるのじゃ。そして蓮華の台座へ、3つの欠けた法輪を組み合わせ埋め込む。その中心へ宝珠をさし込めば、儂がいなくても安寧の世は続く』」

 不安げな面持ちの2人に、優しく声を掛ける処世。宝珠と法輪を台座へ納めれば、大地に潤いの加護が行き渡るという。

 ――そうした、4つの大陸を治める天子。配下の聖天とは……。

 【浄瑠璃(じょうるり)大陸】を治め宝珠を守護する薬師(やくし)

 【蓮華蔵(れんげぞう)大陸】を治め法輪を守護する遮那(しゃな)

 【無勝荘厳(むしょうしょうごん)大陸】を治め法輪を守護する釈迦(しゃか)

 【妙喜(みょうき)大陸】を治め法輪を守護する阿閦(あしゅく)

 4人の聖天から、3つの法輪。1つの宝珠。それらの人工遺物を受け取り、台座へ納めるように伝える処世。しかし、それには大きな問題があった……。