銀色の巨竜に変化したラウールとの戦いは熾烈を極めた。
僕の攻撃はラウールのダイヤモンド以上の硬度を誇る皮膚に傷一つつけられないでいた。
一方のラウールもまた僕に対して決定的なダメージを与えることは出来ずにいた。

一時間半にも及ぶ攻防で体力だけが削られる中両者のにらみ合いが続いていた。

「はぁっ、はぁっ……さすがに疲れたな」
『ナ、ナンテヤツダ……コノケイタイノオレトゴカクニヤリアウナンテ』

僕の攻撃は硬い皮膚によってふせがれてしまうしラウールは僕を殺したところで僕は復活をしてしまうのでお互いに決め手がない。

『シ、シカタナイ、コレダケハツカイタクナカッタガソンナコトヲイッテイルバアイデハナサソウダナ』
ラウールはそう言うと口を大きく開けた。

『バーニングブレスッ!』
言い放った途端ラウールの巨大な口から高温の息が吐き出された。
熱風となって僕を襲う。

「ぐあぁぁっ……」
僕の皮膚が焼けただれていく。
それとともに体がしびれて動けなくなった。
僕は地面に倒れてしまう。

『……ヤ、ヤッタゾ。コレデモウオマエハウゴケマイ……ガ、ガフゥッ……!』
攻撃を仕掛けた側のラウールもまた口から血を吐いて倒れてしまった。
巨体が沈んで地面が大きく揺れる。

「……な、なんだ……?」
『バ、バーニングブレスハオレノナイゾウゴトヤキツクシテシマウノダ……カイフクニハジカンヲヨウスル』
苦々しくつぶやくとラウールは元の人間の体へと戻っていった。


◆ ◆ ◆


僕とラウールは地面に倒れたまま動けずにいた。
するとそこからさらに一時間が経過した頃、
「う、うぅっ……」
ラウールが体を起き上がらせた。

「な、なんとか回復したぞ。お前はまだ動けないようだな」
僕のそばまで寄ってくるとラウールは僕を見下ろして言う。

「だがここからどうするかが問題だな。殺してもよみがえってしまうのでは意味がない」
少し考えてから、
「ふむ、世界評議会の本部へと連れていくしかないか。あそこならばお前を一生眠らせておくだけの麻酔薬があるからな」
ラウールはどこかに連絡を取り始めた。

するとしばらくして見たこともない鉄の塊が空を飛んでやってきた。
僕は身動きできないままそれを目で追った。

「な、なんだあれは……?」
「開発中の無人飛行機、通称ディグドローンと呼ばれるものだ。お前には知る必要のないことだがな」

その後着陸したディグドローンとやらにラウールは僕を抱えたまま乗り込むとそのディグドローンはどこかに向けて飛び立つのだった。


◆ ◆ ◆


「な、何を考えておるんじゃラウールよっ。そやつを本部に連れてくるなどどうかしておるのかっ!」
「そうですよラウールっ。ここは世界評議会のメンバーとあなたしか入ってはいけない聖域なのですよっ!」
「申し訳ありません。しかし殺しても生き返ってしまう以上麻酔で一生眠らせておく以外手だてがみつからなかったのです」
いつの間にか落ち着きを取り戻し涼しげな顔で答えるラウール。
僕を抱えたまま一礼するとラウールは怪しげな部屋に僕を連れていった。

「い、今のが世界評議会の連中か……?」
僕は意識を失わないように必死に気を保ちながらラウールに問いかける。

「はい、そうですよ。今の皆様がこの世界のリーダーの方たちです」
「そ、そうか。あいつらが僕を殺す命令をあんたに下したってわけだな」
「そうなりますね」
そう返すとラウールは僕を部屋の中央にあったベッドのような台に寝かせた。

「さてそれではクズミン様、あなたにはこれから寿命が尽きるまでここで永遠に眠っていてもらいます。なに、痛みは一切ありませんよ。麻酔ガスをこの部屋に充満させるだけですから」
それだけ言って部屋を出ていくラウール。
部屋のドアが完全に閉じられると部屋の四隅からブシュ―っとピンク色の煙が噴出する。

こ、こんなところで一生寝て暮らすなんてごめんだ。
僕は何とか体を動かそうとする。
だがわずかに指先が動くだけ。

「はあ~……痛そうだけどやるしかないのか」

僕は嫌々ながらつぶやくと非常に不本意ではあるが――自分で自分の舌を噛みきるのだった。


◆ ◆ ◆


スキルの効果で完全復活を遂げた僕はすぐさま部屋のドアを破壊して麻酔部屋から抜け出す。
その際大きな音をさせてしまったので何事かとラウールや世界評議会のメンバーたちが集まってきた。
僕は驚き慌てふためいている評議会の年寄りたちは無視してラウールに向けて駆け出すと、
「スキル、メタルド――」
ラウールがスキルを発動するより一瞬早くラウールの首をはね飛ばす。

床に落ちて転がるラウールの首を見て評議会の年寄りたちがおのおの悲鳴を上げた。

「あんたたちが僕を殺すようラウールに命じたんだってな」
「そ、それはっ……」
「う、嘘じゃ! ラウールの奴が嘘を言ったんじゃっ!」
「そ、そうだわっ、わたくしたちは何も悪くありませんことよっ」
「お、お主を殺すわけなかろうがっ」
「ほ、ほら怒りを鎮めんかいっ」
口々に言いながら評議会の年寄りたちは目を見合わせじりじりと後退していく。

「あんたたち全員の総意だって聞いたぞ」
僕の目の前には五人いる。
評議会のメンバーは確か二十二人だったからあと十七人がこの施設内のどこかにいるのだろう。

「だ、だからそれはラウールが勝手に言ったことでわしらはそんなことは――」
「黙れ」
僕は喋り続けていた一人の老人の喉仏に四本の指を突き刺した。
「ごほぉぁあっ……!?」
老人が喉を押さえ倒れ込む。

「あと二十一人」

僕があっさりと評議会のメンバーを殺すのを見て話しが通じないと悟ったのかみんなが我先にと逃げ出した。
だが相手は頭でっかちの年寄りばかり、逃がすはずもなく。

ザシュ!

「あと二十人」

ドゴッ。

「あと十九人」

パチュン。

「あと十八人」

ゴキッ!

「あと十七人」

僕は次々と評議会の年寄り連中を殺していった。
そしてその後施設内にいた他のメンバーたちも全員みつけだしすべて血祭りにあげてやった。


「ふぅ~……」

僕は施設を出ると中に置いてきた二十三人分の死体とともに施設を焼き払う。
世界評議会などくそくらえだ。


ゴウゴウと燃え盛る施設を背にして、

「村に早く帰ろう」

僕はルビーさんの待つセンダン村へと歩みを進めるのだった。