「クズミンさぁ~ん、お昼ご飯出来ましたよぉ~」
「はーい、今行きますっ」

僕はルビーさんの呼ぶ声を受けて畑仕事を一時中断するとルビーさんの待つ家へと戻る。

「お疲れ様でしたぁ、クズミンさん」
「いえ、こちらこそご飯作ってもらってありがとうございます」
家に入るとルビーさんがにこにこした顔で出迎えてくれた。
テーブルの上には美味しそうな料理がたくさん並んでいる。

「わたし張り切って作り過ぎちゃいましたぁ。食べ切れなかったら残してくださいねぇ」
「大丈夫ですよ、僕かなりお腹すいてますから。それにルビーさんの料理すごく美味しいですし」
「わぁ、そう言ってもらえると嬉しいですぅ」
最悪僕が食べ切れなくてもルビーさんが平らげるだろう。
一緒に住んでいてわかったことだがルビーさんは細身の割に結構な大食らいなのだ。

「いただきます」
「いただきますぅ」
僕たちは胸の前で両手を合わせるとそう口にしてから昼ご飯を食べ始めるのだった。


◆ ◆ ◆


ルビーさんがこのセンダン村にやってきてから一週間、僕とルビーさんは同じ家で暮らしていた。

僕が言った「この村で一緒に暮らしませんか?」という言葉にルビーさんは「わぁ、ほんとですかぁ~? お世話になりますぅ」と心底嬉しそうに返した。
少しして夜になり「どの家に住むか決めましたか?」と訊くと「ふぇ? ここで一緒に暮らしていいんですよねぇ?」ときょとん顔を僕に向けてきた。

そこで僕は気付いた。
ルビーさんは僕の言った言葉を「一緒の家で暮らしませんか」という意味でとらえていたのだと。
もちろん僕はすぐに否定したがルビーさんは悲しげな顔をして「別々だったんですかぁ……」としょんぼりしてしまった。
ルビーさんはメイドとして他人の家に住み込みで働いていたようなので男の僕と一緒に暮らすことにもまったく抵抗がなかったらしい。
むしろ他人と暮らすことに慣れてしまっていて一人だと心細かったようだ。

僕はそんなルビーさんを見て思い切って言ってみた。
「じゃあこの家で一緒に暮らしますか?」と。

僕も久しぶりに人と会話して楽しかったのだ。
この時間がずっと続けばいいとも思っていた。
幸い僕の家は広く一人で住むには大きすぎた。
……断じて下心があったわけではない。


◆ ◆ ◆


「ごちそうさまでした」
「は~い、お粗末様でしたぁ」

昼ご飯を食べ終わると僕はルビーさんがキッチンで食器を洗い始めるのをよそに再び外に出て畑仕事を再開する。

僕たちは仕事を分担していた。
畑仕事はそれなりに重労働なので僕が引き受け、家事全般をルビーさんにお願いする形にしていた。
ルビーさんはおっちょこちょいでたまにお皿を落として割ってしまうこともあるが料理は上手だし掃除も他の家の分までやってくれているので僕としては大助かりだった。


二時間ほど畑仕事に精を出した後僕はルビーさんに一言断ってから村の外に自生しているネリンギというきのこをとりに村を出た。
そして辺りが暗くなるまでネリンギを山ほどとってから村へと戻った。


「ただいま帰りましたー」
僕が玄関のドアを開けると、
「あっ、おかえりなさいクズミンさんっ」
ルビーさんが玄関まで走ってやってくる。

わざわざ出迎えなくてもいいのに。
そう言おうとした時、
「あのあの、クズミンさんにお客様が来ているんですぅ」
ルビーさんが焦った様子で僕に言った。

「え? お客さん?」
「はいぃ。すごく綺麗な方でわたし緊張しちゃいましたぁ」

綺麗な人?
誰だろう……。

僕はとりあえず客間に向かった。
客間のドアをノックしてから開けるとそこにはフォーマルな恰好をした顔立ちの整った男性の姿があった。
美男子という言葉がとてもしっくりくる感じの爽やかなそれでいて清潔感のある男性だった。

その男性は僕を見るなりお辞儀をしてから自己紹介を始めた。

「初めまして、クズミン様。わたくしは世界評議会から派遣されてまいりました、ラウールと申します。以後お見知りおきを」
「世界評議会……?」


このラウールという男性の訪問によって僕の平凡で穏やかな日常は一変することになるのだがこの時の僕はそれをまだ知らないでいた。