ゴブリンたちのおもちゃと化したマリンを置き去りにして僕はセンダン村へと戻った。
センダン村ではニーナが僕の帰りを待ってくれていた。

「あっ、お帰りなさいクズミンさん」

ニーナは僕がマリンに何をしてきたかを知っている。
それでもいつもと変わらない笑顔で僕を迎えてくれた。

「うん。お待たせニーナ」
僕は微笑み返すとニーナの髪をくしゃっと撫でた。
ニーナは気持ちよさそうに目を細める。

「マリンへの復讐は終わったよ。あとはライドンだけだ」
「ライドン……さんの居場所はわかりましたか?」
「ああ、マリンからちゃんと聞き出せたよ。どうやらクオーツ王国ってところで僕を殺す準備をしているみたいなんだ」
マリンの話ではライドンはクオーツ王の親戚筋に当たるらしく兵士たちを多く従えて僕を亡き者にする計画を企てているようだ。

「ええっ、大丈夫なんですかっ?」
「まあ大丈夫だとは思うよ」

僕のステータスはオール9999でカンストしているため訓練された兵士が何人来ようと問題はない。
ライドンの味方をするというのならそれは言い換えれば僕の敵ということだ。
なのでたとえ僕とは無関係の人間だとしても殺す覚悟は出来ている。
もし仮にクオーツ王国全体が敵に回ったとしても僕はライドンを必ず血祭りにあげてみせるつもりだ。

ただ僕にも気がかりなことはある。
それはニーナのことだ。
ニーナは僕とは違いまるで戦えない。
だからニーナが争いに巻き込まれるようなことだけはなんとしてでも避けたい。

「……ねぇ、ニーナ。僕がライドンに復讐をし終えるまでしばらく別れないか?」
「えっ……!?」
愕然とした顔をするニーナ。

「ど、どうしてですか? わたしが足手まといだからですかっ?」
「いやそういうわけじゃないけどさ、僕はニーナのことが心配なんだ」

ニーナは捨てられた子犬のような目で僕をみつめている。

「この村にニーナが残ってくれると僕は安心できるんだよ」
「で、でもわたし、クズミンさんと一緒にいたいですっ。も、もしわたしに何かあっても見捨ててくれて構いませんっ。ですからクズミンさんと一緒にいさせてください、お願いしますっ」
「もう一人になるのはいやなんです!」とニーナは声を張り上げた。
目に涙を浮かべ懇願するニーナ。
その姿を目の当たりにして僕は決心が鈍りそうになる。

「う~ん……」

この後ニーナは一言も喋ることはなく、僕は結局この日結論を出すことは出来なかった。


◆ ◆ ◆


村の空き家に一泊して翌朝。

「おはようニーナ」
「……おはようございます」
ニーナは僕の挨拶に小さくうなずく。
目の下にはクマが出来ていた。

「眠れなかったの?」
「……寝ている間に置いていかれるかと思ったので」
とニーナ。
もしかしたら一晩中起きていたのかもしれない。

「いいよ、ニーナ。僕と一緒に行こう」
「えっ、いいんですかっ!」

僕は一晩考えてそのような結論に達していたのだった。

「ああ。でも危なくなったらすぐ逃げるんだよ、いいね?」
「はいっ」
ニーナはさっきまでとは打って変わって元気よく答える。

「じゃあ改めて、これまで通りよろしくニーナ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

僕たちは握手を交わすとお互いににこっと笑うのだった。