「わぁ、ここがリンドブルグの町ですかぁ~」

ニーナがきょろきょろと町の様子を眺めながら独り言のようにつぶやく。
僕たちはリンドブルグの町にようやくたどり着いていた。
リンドブルグの町はかなり大きくそれに比例して人の数もとても多かったので小さな村出身のニーナが驚くのもうなずける。

かく言う僕もこんなに大きな町に来たのは初めてだった。
これだけ人がいては僕が賞金首だということに気付く者も現れかねない。
そうなる前に早いところ凄腕の占い師とやらに会いに行かなくてはな。

すると、
「あ、あの、すみません。この町に探し物の場所を教えてくれる占い師さんがいるって聞いたのですけど知りませんか?」
道行く女性にニーナが声をかけた。
僕を気遣っての行動だろう。

「あー、ナシババさんねもちろん知ってるわよ、有名だもの。この道を真っ直ぐ行った突き当たりにある怪しげなお店がナシババさんの占いの館よ」
「あ、ありがとうございますっ」
「でもあなたたちだと多分無理なんじゃないかしら」
「え、無理?」
ニーナは首をかしげる。

「あっ、ごめんなさいね。なんでもないわ、じゃあねっ」
口を押さえいそいそと去っていく女性。

気になる言葉を残していったがなんだったのだろう……?
僕とニーナは訳が分からずお互いに顔を見合わせ眉をひそめたがその理由は占いの館に着くとすぐに明らかになった。


「えっ、金貨百枚ですかっ!?」
「ああ、そうじゃよ。わしに人探しをしてもらいたかったら金貨百枚じゃ」
テーブルを挟んで対面の椅子に座る老婆が面倒くさそうに言う。
ちなみにこの老婆が占いの館の主のナシババさんだ。

「お主ら金貨百枚持っとるか? 持っとらんのならさっさと立ち去るがよい」
しっしっと言わんばかりに手をひらひらと振るナシババさん。

「金貨百枚っていくらなんでも……」
金貨百枚と言ったら十年は遊んで暮らせる額だ。
僕の現在の手持ちの金貨は四枚。
とてもじゃないが百枚には遠く及ばない。

「あの、金貨四枚でなんとかなりませんか?」
無理を承知で訊ねてみるがナシババさんはテーブルの上の水晶玉を布巾で磨きつつ、
「馬鹿言うんじゃないよ。わしをなめとるのか? 若造が」
僕をにらみつけてきた。

「す、すみません……」
思わず謝る僕。

「クズミンさん、どうしますか?」
隣に座っていたニーナがこそっと耳打ちしてくる。
不安そうな顔を僕に向けてきていた。

「うーん……」
まいったな……ライドンとマリンの居場所を探し当ててもらうつもりだったのに当てが外れてしまった。
お金を稼ごうにも僕はお尋ね者なのでそれもままならない。

どうするか……?

僕が頭を悩ませていると――
「若造、お主もしやクズミン・アルバラードか?」
ナシババさんが突如口にした。

「えっ……!?」
予期していなかった言葉に僕は頭が真っ白になる。

「い、いや。えっと僕はそんなことはなくてっ……」
なんとかごまかそうとする僕に、
「隠さんでいいわい。そこの嬢ちゃんがさっきそう呼んだじゃろうが」
すべてを見通すかのような目でナシババさんが言った。

さっきのささやき声が聞こえたのか……?
年寄りのくせして結構な地獄耳だ。

バレてしまったからにはと席を立とうとする僕にナシババさんは、
「これ、待たんか。別にお主をどうこうする気はないわい。とにかく一旦座りな」
再度椅子に座るよう促す。

「え?」
「わしは相手がお尋ね者だろうが一向に構いやしないよ。金さえ払ってくれればね」
「……い、いや、でも僕たち金貨百枚なんて持っていませんよ」
「そんなことはわかっとるわい、わしの話を最後まで聞かんか。よいか、お主Eランクの冒険者らしいがCランクの冒険者を殺したってことはそれなりに強いんじゃろ?」
言いながらくぼんだ目をぎろりと僕に向けるナシババさん。

「は、はぁ……」
「そこでじゃ、お主に一つやってもらいたいことがある」
「僕に……?」
「もしわしの頼みを聞いてくれたら金貨百枚はチャラにしてやってもよいぞ」
「えっ、本当ですかっ?」
「どうじゃ、聞いてくれるか?」

金貨百枚なんて今の僕にはとても用意出来ない。
ナシババさんの頼みが何かはわからないがそれでライドンとマリンの居場所を探し出してもらえるのならやらないという手はない。

「は、はいっ。やります」
「そうかそうか、お主ならそう言ってくれると思っとったよ」
「それで僕は何をすればいいんですか?」
「ほっほっほ。なあに、簡単なことじゃ」
ナシババさんはそう前置きすると、
「北の森に棲むドラゴンを倒してそのドラゴンの角を取ってくるだけじゃよ」
底意地の悪そうな顔でにやりと笑うのだった。