僕たちは【サーチ】というスキル持ちの占い師にライドンとマリンの居場所を教えてもらうため、リンドブルグの町を目指してただひたすら歩いていた。

ニーナはもちろん僕もリンドブルグの町には行ったことがないのでどれだけの日数がかかるかはわからないがとにかくリンドブルグの町があるという東の国境へと向かって歩を進める。

道中オークの群れに遭遇するも僕はニーナを守りつつこれを返り討ちにした。
長旅になる可能性も考慮して倒したオークの耳を回収する。
その役目はニーナが買って出てくれたが僕も一緒に作業した。
その際一応オークのお腹も切り開いてみたが魔石をみつけることは出来なかった。

ちなみにニーナはこれまでにモンスターと戦ったことはないそうでレベルは1のままだということだった。
モンスターとの戦いはすべて僕が引き受けることになるがもとよりニーナを戦力として期待してはいなかったのでまったく問題はない。


◆ ◆ ◆


適当な場所を探して野宿をし、一夜明けてから再び歩き始めると少しして前方に大きなお城が見えてきた。
そこからさらに近付いていくと城下町が目に飛び込んでくる。
移動中に倒したモンスターたちの体の一部をギルドで買い取ってもらうため僕とニーナはその城下町に立ち寄ることにした。


◆ ◆ ◆


城下町に一歩足を踏み入れるとそこは別世界だった。
門をくぐった途端にぎやかな音楽と人々の歓声が耳に入ってくる。

そばにいた花飾りを持った若い女性が僕たちの姿を見て歩み寄ってくるとにこやかにその花飾りをニーナの頭に乗せた。

「ようこそ、マーレの町へっ」
「あ、ありがとうございます……」
恐縮するニーナをよそに僕はその女性に訊ねる。

「あの、すみません。僕たちこの町には初めて来たんですけど今日はお祭りでもあるんですか?」

まだ午前中だというのに大人たちはみんなお酒を手にして陽気に騒いでいる。
子どもたちは子どもたちで町のあちこちで楽しそうに歌いながら輪になって踊っていた。

「ええ、今日はアンリ王の誕生日なんですよ」
と女性。

「アンリ王?」
「はい。マーレ城の城主様です」
女性はお城を見上げて説明してくれる。

「アンリ王はそれは素晴らしいお方で町のみんなからとても慕われているんですよ。なので毎年アンリ王の誕生日にはみんな仕事を休んで町全体で盛大にお祝いするんです」
「へー、そうなんですか」
僕は相槌を打ちつつ一抹の不安を覚えていた。
町全体ってことはギルドも休みなんじゃないだろうか、と。

だがそれは杞憂に終わる。
この後ギルドを訪れたところギルドは開いていて一人だけだがちゃんと職員もいた。

「いらっしゃいませ」
ギルドの職員の眼鏡をかけた男性が僕たちを出迎えてくれる。

「えっと、モンスターを何体か倒したので換金をお願いしたいんですけど」
「はい、かしこまりました。それではギルドカードとモンスターの体の一部をお見せいただけますか?」
丁寧な対応の男性職員。

「はい」
僕は皮袋からそれらを取り出すとカウンターの上に並べてみせた。

「それでは確認いたしますので少々お待ちいただけますでしょうか?」
「はい、お願いします」
「では少々お待ちください」
そう言うと男性職員が僕のギルドカードとモンスターの体の一部を持って奥の部屋へと入っていく。

僕が男性職員とやり取りしている間ニーナは冒険者への依頼書が貼られた隣の壁を興味深げにずっと眺めていた。
ギルドはおろか村の外にもろくに出たことのないニーナからしてみればギルドの中はとても物珍しく感じるのだろう。

僕がニーナのそんな姿を微笑ましく思ってみつめていると、
「あっ!」
ニーナが突如声を上げた。

「ん? どうかしたか? ニーナ」
「クズミンさん、こ、これ見てくださいっ」
ニーナが焦った様子で壁を指差す。

僕はニーナの指先を目で追った。
するとそこにはBランク冒険者向けの依頼書がありその内容をよく見ると、Cランク冒険者チェゲラ・ガッチェリオを殺した犯人であるEランク冒険者クズミン・アルバラードの捕獲(生死は問わない)と書かれていた。

「げっ、なんだこれっ!?」
僕はその依頼書を手に取ってくまなく読む。

と、
「……まずい。僕、賞金首になってるみたいだ」
どうやら金貨十枚相当の賞金首として僕は大陸中に手配されてしまっていたようだった。

「えっ、賞金首ですかっ?」
「うん……多分この分だと手配書も出回っていると思う」
「そんなっ」

よく考えれば人を殺して逃げたのだから手配されるのは当たり前のことだ。
ましてやその犯人が仲間の冒険者を殺した冒険者だというのならなおのこと放っては置けない事案だろう。

するとその時、
「お待たせいたしました」
奥の部屋から男性職員が戻ってきた。

「こちら、お返しいたしますね」
と言って僕の冒険者カードを手渡してくる。
見た感じ男性職員は僕の素性にはまだ気付いてはいないと思われる。

「ではこちらオーク五体とホブゴブリン二体、オバケカワウソ二体で銀貨二十四枚になりますがいかがでしょうか?」
「あ、はい、大丈夫です」
僕はそうそうに会話を切り上げると銀貨を受け取り背を向けた。

「行こう、ニーナ」
「は、はいっ」
バレないうちにと僕たちは足早にギルドをあとにする。

バンッ。

ギルドを出ようと僕が扉に手を伸ばした時だった、後ろから大きな銃声が聞こえた。
と同時に僕は前のめりに床にどさっと倒れ込む。

「クズミンさんっ!」
「へ、へへっ……やった、やったぞっ。へへっ、賞金首を殺してやったぞっ」
男性職員の声。
さっきまでの上品な態度とは打って変わって下品な笑い声を上げていた。

「Cランクの冒険者を殺したっていうからちょっとビビったが、なんてことはない所詮はEランクの冒険者だったな。へへへっ」
「あ、あなた、よくもクズミンさんをっ……!」
ニーナが男性職員に掴みかかろうとするが、
「なんだお前、お前も賞金首かっ?」
逆に胸ぐらを掴まれて持ち上げられてしまう。

「は、放してっ……」
「だったらお前も殺してやるよ。こんなガキじゃ報奨金も大したことはないだぶふぅっ……!!」
男性職員はギルドの奥の部屋のドアを突き破って吹っ飛んでいった。
もちろん僕が殴り飛ばしてやったからだが。

「クズミンさんっ! い、生きていたんですねっ」
床に尻もちをつきながらも僕を見上げて嬉しそうに顔をほころばせるニーナ。

「ああ、僕のステータスはオール9999だからね。拳銃で撃たれたくらいじゃ死なないよ」

僕は手を差し出してニーナを立ち上がらせる。

「さっきの男性、もしかして殺しちゃったんですか……?」
「多分生きてると思うよ。かなり手加減したつもりだから」
「そ、そうですか」
ニーナは僕のことを思ってかそれとも男性職員のことを思ってか安堵の表情を浮かべた。
優しいニーナのことだからその両方かもしれない。

「ただこれからはギルドでお金を稼ぐことは無理っぽいね。それに賞金稼ぎや冒険者が僕を狙ってくるかも……」

僕はニーナに顔を向ける。

「これまで以上に大変な旅になりそうだ。ニーナ、前にも訊いたけどもし僕と一緒にいるのが――」
「ずっと一緒にいますよ」
「え?」
「前にも言いましたけどわたしクズミンさんとずっと一緒にいますよ。その気持ちはこの先も変わりませんから」
ニーナは怒気をはらんだような鋭い目つきで僕を見据えていた。

「ニーナ…………もしかして怒ってる?」
「ほんの少しだけ怒ってます……だからもう今みたいな寂しくなるようなことは言わないでください」
いつになくニーナが自分の感情を表に出して言う。

「……ごめん。もう二度と言わないよ」
僕の言葉にニーナはにっこりと笑った。

そして、
「それじゃクズミンさん、早く町を出ましょう。異変に気付いて誰か来ちゃうかもしれませんよ」
そう言うとニーナは僕の手を取り駆け出すのだった。