「あんたがやったんでしょ! 吐きなさいよっ」
生物室に着くとさくらが男子生徒にヘッドロックをかましていた。

「痛いっ、いたたたたたっ!」
さくらの腕にタップをしながら必死に訴えているあの人がおそらく田中さんだろう。

「ちょっと姉さん、とりあえず放してあげてっ。落ち着いて話をしようよっ」
「流星、ちょうどいいところに来たわねっ。こいつを職員室まで連れていくから手伝いなさいっ」
「さくらちゃん放したった方がええんちゃう?」
「……修羅場」

「な、なんなんだきみたちはっ!?」
生物部のひょろ長い別の男子生徒が声を震わせる。この人も三年生みたいだな。

「あ、すいません。俺たち文芸部なんですけど、ちょっと待ってくださいね……おい、さくらこっち来いっ」
俺は三年の男子生徒をよそにさくらを羽交い絞めにして田中さんから引きはがした。
「何してんのよ良太、放しなさいよっ。あいつが犯人なんだからっ」
「わかったからまず落ち着け。俺たちはお前のことを疑ってなんていないから、いてっ!」
暴れるさくらのエルボーが俺のこめかみに当たった。

俺はその拍子にふらふらと倒れそうになり、何かに掴まろうとしてよりにもよってさくらの胸をむぎゅっと鷲掴みにしてしまう。

「……っ!?」

次の瞬間さくらが振り返り、その勢いのまま俺のあごに右ストレートを放った。
薄れゆく意識の中、俺の瞳には顔を真っ赤にして胸を押さえるさくらの顔が映っていた。