「高木さんが転校!?」
「こずえちゃんが海外って?」
「こっちゃん何も言ってなかったよ……」
「先生、高木が転校ってどういうことですかっ?」
クラスのみんながざわつく。
当然だ。クラスのマドンナが突然誰にも何も言わずに転校だなんて。

先生が口を開いた。
「高木さんは一昨日の土曜日にご両親の仕事の都合でドイツに発ちました。いつ帰って来れるかはまったくわからないそうです。クラスのみんなには別れがつらくなるから黙っているようにと言われていました」
「そんな……」
「教えてほしかったのに……」
「落ち着いたらクラスに当てて手紙を書くと言っていましたから待っていましょうね……はい。では一時間目の授業に備えてください」
それだけ言うと先生は退室していった。

クラスのざわめきが収まらない中、織田が近付いてきて顔を寄せる。
「真柴氏、知っていたでござるか?」
「いや……何も知らなかった」
「う~む。高木氏は拙者たちを繋げてくれた恩人だっただけに惜しいでござるな」
「ああ、そうだな……」
「……真柴氏、元気を出すでござるよ」
織田は俺の肩に手を置いた。

「ん? 俺は元気だぞ」
なんだ?
俺はそんなに元気のなさそうな顔をしていたのか……?

「それならよいでござるが、ではまた」
「ああ」

俺は席に戻っていく織田の後ろ姿に高木の後ろ姿が重なって見えた。
車の中から俺に向かって手を大きく振る高木を思い出す。
高木は俺と遊園地で別れた時、もう月曜日には会えないことを知っていたんだよな。
……まったく、あれこれ記念がどうとか言っていたのはそういうことだったのか。

ため息交じりに椅子の背もたれに背中を預けると、ふと机の中が見えた。

……んん?
……机の中に見慣れない物があるぞ。
俺はそれをそっと取り出した。

「あっ……」

それは高木からの手紙だった。

[――真柴くんへ。ううん、良太くんへ――

遊園地からの帰りの車の中で書いています。
きみがこれを読んでいる頃には私はもう日本にはいないと思います。
良太くんには話そうかとも思ったんだけどやっぱり黙って行くことにしました。ごめんね。

実は父の転勤の話は前々からあったんだけどその度に私は超能力を使ってそれを白紙にしていたの。
父がずっとドイツに行きたがってたことも私は知っていたのにだよ。我ながらひどいよね。

今回父も母も私には日本に残ってもいいんだよって言ってくれたんだけどさすがに両親と妹たちと何年かそれとも何十年か離れて暮らすのはちょっとね。
ああ、言ってなかったけど私妹が四人もいるのよ。みんな私に似て可愛いから今度写真送るわね。

少し話が脱線しちゃったけど……流星くんは戻っているかな? 戻っているといいんだけど。
こればっかりはちょっと自信がないんだ。戻っていなかったらごめんなさい。

とにかく私はもうきみのそばにはいないんだからね。
今回みたいなことがあってももう助けてやれないんだよ、わかってる?

……うんうん。わかっているならそれでいいのよ。
そうだ、ひまわりのブローチ大事にするからね。私の初デートの記念品だから。

じゃあもう書くこともなくなったからこれで終わるね。

追伸――ペア旅行券で誘う相手だけど私のおすすめは高橋さんかな。]


おすすめってなんだよ、まったく……。

……ありがとうな、高木。

俺は手紙をそっと机の中に戻すと教室の窓から見える青い空を眺めながら心の中でそうつぶやいた。