「ここでいいわよ」
高木が不意に言った。

「え、ここってまだ遊園地を出たばかりだぞ」
「うん」
バス停の前で高木は辺りをきょろきょろ見回す。

そして、
「実は迎えの車が来てるの。ほら、あれがそう」
道路の向かいにとめてある一台の黒い高級車を指差した。

高級車はプッとクラクションを鳴らす。
「じゃあ私行くわね」
「あ、ああ」

高木は手を上げながら横断歩道を走っていく。
そして車に乗りこむと車の窓から顔を出した。
「今日は本当に楽しかったわ! ありがとー!」
大きく手を振った。

「ああ、また月曜日になー!」
「うんっ!」
高木は今日一の笑顔を見せ車で去っていった。

「ふぅ……これで仮のデートも終わりか」
なんか夢みたいな時間だったな。
心にぽっかり穴が開いたような気がしているが多分気のせいだろう。

「さっ、あとは流星だな……」


◇ ◇ ◇


高木の言う通り翌日の日曜日、俺は流星の家を訪ねてみた。
すると、
「あれ、真柴先輩どうしたんですか?」
流星が何事もなかったかのように出迎えてくれた。

「お前……なんともないのか?」
「え? どういうことですか?」
「いつからいたんだ?」
俺は流星の腕を掴んだ。

「はい? ずっとうちにいましたけど……真柴先輩大丈夫ですか?」
「ん、ああ。いや変なこと言って悪かった」
流星は問題なく前と変わらずにそこにいた。
約束通り高木がなんとかしてくれたようだった。
ありがとう、高木。

「良太、あんた朝っぱらから何してんのよ、人ん家の前で」
流星の後ろからさくらが顔を出す。

パジャマ姿でぼさぼさの頭を掻きながら俺の前に出て来ると、
「何してんのって訊いてるのよっ」
睨みつけてくる。
俺と同じ背丈の上、目力も半端ないから迫力がある。

「すみません、真柴先輩。姉さん寝起きは機嫌が悪くて……」
いや、寝起きだからっていう問題か、これ?

「流星は元気かなと思っただけだ」
「それなら電話で済むじゃない、バカじゃないの」
高木が家に行ってみろって言うから来たんだよ。

「じゃあ流星、また明日部室でな」
「あ、は、はい。ではまた明日」
「ちょっと良太、あたしを無視するんじゃな――」

バタン。

うるさいからドアを閉めてやった。
だがさくらの場合パジャマ姿でも追いかけてくる可能性は充分あるからさっさと退散しよう。


◇ ◇ ◇


そして翌月曜日の朝。

「一昨日神宮寺駅前で真柴氏をみかけたでござるよ」
学校に着くと織田と下駄箱で出くわした。

「なんだ、それなら声かけてくれればよかったのに」
「そうしようと思ったのでござるがちょうど高木氏が現れたので遠慮したのでござるよ」
そうか。一昨日といえば駅前で待ち合わせして高木と遊園地に行ったんだったな。

「遠慮なんて必要なかったのに。高木とはただの成り行きで一緒に出掛けただけだぞ」
「むふふ。拙者だってこう見えて気が利くのでござるよ」
織田が自慢気に鼻を鳴らす。
遊園地に行ったなんて言ったら余計誤解しそうだからここは黙っておくか。

教室に入るとまだ高木の姿はなかった。
高木にも一応釘を刺しておこうと思っていたのだが。
まあ登校して来たら言えばいいだろう。

しかし、高木が来る前に先生が教室に入ってきてしまった。
珍しいな。高木が遅刻するなんて。

すると教壇に立った先生は開口一番こう言った。

「えー、まずは残念なお知らせがあります……高木こずえさんが海外の学校に転校しました」