お姫様だっこ大会の参加賞の品であるひまわりのブローチを受け取ると俺と高木はメイドカフェをあとにした。

「これ、もらってもいい?」
隣を歩く高木がブローチを太陽にかざす。

「ああ、好きにすれば」
「ありがとう」
そう言って参加賞のブローチをそっとポケットにしまう。

「今つけないのか?」
「うん。記念だから大事に取っておく」
どう見てもメイドさんの手作りに見えるちゃちなブローチなんか記念でもなんでもないと思うが。

「それにしても良太くんて力持ちなんだね。びっくりしたわ」
「それを言うならお前の方がすごいだろ」
メイドカフェでは俺を軽々と持ち上げやがって。

「私鍛えてるからね」
袖をまくって力こぶを見せてくる。
だったら茶道部じゃなくて運動部に入ればよかったものを。

しばらく歩いていると高木はそれまでしていた会話とは関係なく唐突に「カレーが食べたいわっ」と声を上げた。

「なんだよ。急に腹が減ったのか?」
「そういうことだってあるでしょ。とにかく私はカレーが食べたくなったの。用意してっ」
ねだるように両手を差し出す高木。

「さっきまでメイドカフェにいたんだからそこで頼めばよかっただろ」
「あの時はあの時、今は今よっ」
しおらしいところを見せたかと思いきや突然わがままになる。よくわからない奴だ。

「カレーたってなぁ……」
俺は周りを見渡した。すると都合よく前方にカレー専門店をみつけた。

「あそこでいいか?」
俺は指を差した。
「うん、そうしましょ」
高木は大きくうなずいた。

近くまで行くとカレー専門店には外まで行列が出来ていた。
昼飯時だから仕方ないかもしれないが……。

「別の店にするか? これ結構並ぶぞ」
「いいよ、ここで」
「でも腹減ってるんだろ? 時間かかるんじゃないか」
「いいから並ぶのっ」
今日のデートの全決定権は高木にある。高木がそれでいいのなら俺は別に構わないが……。
っていうかこれって本当にデートか?
わがままお嬢様をエスコートする執事の気分だ。

案の定というか当然というか俺たちが店に入れるまでに三十分以上かかった。

やっと店に入れる。そう思って店内に足を踏み入れると、

「おめでとうございますっ! あなたでちょうど一万人目のお客様です! 記念にペア旅行券を差し上げますっ!」

前もって準備しておいたのだろう、大きなくす玉を店員さんが奥から運んできて別の店員さんがそれを割った。
俺の頭の上に紙吹雪が舞い落ちてくる。

「良太くん、すごいじゃないっ。ペア旅行券だって!」
「お、おう」
こんな偶然あるか?
たまたま入った店でたまたま一万人目なんて……。

俺は目立ちたくない性格なので「どうも」と旅行券の入ったのし袋を受け取ると足早に空いていた席に腰を下ろした。

「ねぇ、誰と行くの?」
正面に座る高木は自分のことのように嬉しそうだ。
そもそもこいつがカレーが食べたいなんて言い出さなければこんな偶然起こっていない。

「なあ高木、お前……超能力使っただろ?」
「え……何よ急に?」
「急はお前だろ。突然カレーが食べたいなんて言って。店に入ったらこれだ。お前がやったんだろ?」
どうやったかはわからないが。

「ふふっ。やっぱりバレちゃった?」
いたずらがみつかった子どものように上目遣いで俺を見てくる高木。

「自然な演技したつもりだったんだけどなぁ~」
「演技どうこうの問題じゃないぞ。あからさまだ」
「でも安心して、ずるをしたわけじゃないから。ちょっと千里眼と透視能力を使っただけだから」
と高木は手を振り弁明する。
それはずるではないのか……?

「つうかお前そんなことも出来るのか。神様かよ」
「神様なんかじゃないよ。人の心は操れないもん」
伏し目がちに言う。
そんなこと出来たら無敵過ぎるだろ。

「注文どうなさいますか?」
店員さんが訊きに来た。
「じゃあビーフカレー二つください」
「はい、ただいまお持ちします」
高木は俺の好物を俺に訊くこともなく勝手に注文した。

「お前また俺の心を読んだんじゃないだろうな」
「読んでないよ。私約束は守る主義だから……良太くんいつも購買のカレーパン食べてたじゃん。あれ中身ビーフカレーでしょ」
「ああ、まあそうだけど」
確かに俺は購買のカレーパンが大好きだ。そしてビーフカレーも大好きだ。
昼飯にいつもカレーパンを食べているのを見られていたのか。なんか恥ずかしいな。

「それで話は戻るけど誰と行くの? 旅行」
「そりゃあ……」
普通に考えれば母さんだろ。
だけどそう答えるとマザコンぽいかな。

答えに詰まっていると、
「私の見立てだとさくらちゃんは散々文句を言った挙句オーケーすると思うわ。高橋さんは口には出さないけど喜んで行くと思う。土屋先輩は……そうね、あの人天然だから簡単について来ちゃいそうな気がする」
高木は楽しそうに言う。

「待てよ。高校生同士でしかも男女二人で旅行なんて行くわけないだろ」
何言っているんだ、こいつは。

「ふふっ、大丈夫よ。その旅行券三年間は有効だからその頃にはみんな高校生じゃなくなってるって」
旅行券の入ったのし袋を指差しながら笑う。
のし袋はまだ開けてはいない。
きっとまた透視能力とやらを使って見たのだろうな。