「真柴氏、拙者と一緒に走るでござる」
マラソン大会のスタート地点で織田が話しかけてくる。
中学の時にも似たようなことを言ってきた奴がいたな。そいつにはまんまと途中で裏切られたが。

「ああ、いいぞ」
織田は俺と同じくらいの体力なので自然とそうなるだろうし。
だが、
「駄目だよ、相手に合わせて走るなんて。遅くてもいいから全力で走らないと」
真面目なクラス委員の高木さんが口を挟んでくる。

「お、おう、わかったよ。それより高木さんこんな後ろでいいのか? 優勝だって狙えるんだからスタートラインぎりぎりにいた方がいいんじゃないか?」
全校生徒で一斉に走るわけだからスタート地点は混雑している。
そのため俺と織田はスタートラインから五十メートルくらい後ろの位置に追いやられていた。

「ううん、いいの。ここで大丈夫よ」
晴れやかな笑顔を見せる。
周囲の人間を押しのけて先頭に向かっていったさくらとは大違いだ。

「みんな準備はいいか! 今からマラソン大会を始めるぞ!」
高橋のクラスの担任でもある体育教師の鈴木先生が号令をかける。
「位置について……よーい、ドン!」
さながら満員電車のような状態でマラソン大会は幕を切った。

高木さんは銃声を合図に人混みの中をするりするりと駆け抜けていく。
さすが高木さん。完璧超人は伊達じゃない。

一方、俺と織田は周りの人の波に体を預けるようにして少しずつ前に進んでいく。
もう少し人がまばらにならないとまともに走ることも難しい。

そんな中、ふと土屋さんの姿が目に入った。土屋さんはすし詰め状態の中苦しそうにもがいている。
背が低いから息をするのも大変そうだ。

「土屋さん、こっちです」
俺は土屋さんに手を差し伸べた。
気付いた土屋さんが俺の手に掴まる。俺はその手を自分のもとへと引っ張った。

「ぷは~っ。押しつぶされるかと思うたわ。真柴くんありがとうな」
俺と織田の間に入った土屋さんが俺を見上げる。
「こういう時背高い人はええなぁ」
満員電車並みの密着度なので土屋さんの大きな胸が俺の腹で押しつぶされている。

俺は不純な考えを振り払って土屋さんに織田を紹介した。
「あの、土屋さん。後ろにいるのが俺の友達の織田です。織田、この人は三年の土屋さん、文芸部の部長だ」
「織田くんか、よろしゅうな~」
首だけ動かして織田に挨拶する土屋さん。

「こちらこそでござる、土屋氏」
「ござる?」
「あ~、喋り方は気にしないでください。こういう奴なんで」
「そうなんや~。うちと似た者同士やね」
土屋さんはうんうんうなずく。

「おっ、真柴氏。そろそろすいてきたでござるよ」
「そうだな。これでやっと走れるな。じゃあ土屋さん俺たち先行きますね」
「うん。頑張ってな~」
既にふらふらの土屋さんを置いて俺と織田はスピードを上げた。