一人で自由時間を満喫していると沢山の亀がいる広場の前で高木さんと出くわした。

「あっ真柴くん」
胸の前で小さく手を振りながら駆け寄ってくる高木さん。

「真柴くん、一人?」
「ああ。そっちも一人なのか? 高橋はどうした?」
「高橋さんはまだくらげに夢中なの。もう一時間もくらげの水槽の前にいるのよ、本当にくらげが好きなんだね高橋さん」
あいつそんなにくらげが好きだったのか……知らなかった。
表情からはなかなか読み取れないが今日の水族館楽しみにしていたんだなきっと。

「真柴くんのおかげで高橋さんともだいぶお話できたし今日は本当にありがとうね」
「別に俺は何もしてないけど……」
「ううん、そんなことないよ。文芸部の人たちもみんな私によくしてくれるし、全部真柴くんのおかげだよ」
真剣な顔でそう言ってくる。
ちょっと気恥ずかしい。

「ねぇ、これから私アシカショーを見に行こうと思っていたんだけど一緒に行かない?」
「アシカショーか……いいね。行こうか」
「うん」
俺たちは水族館のパンフレットを広げながらアシカショーの行われている会場へと足を向けた。


◇ ◇ ◇


「さあ続いてはヒーポくんによるフラフープです!」
ヒーポくんと呼ばれたオスのアシカに向かって飼育員さんがフラフープを輪投げの要領で投げた。
するとヒーポくんがそれを首に上手くひっかけその勢いのままフラフープを回し始める。

「「「おおーっ!!」」」
会場からは拍手と歓声が上がった。

横に座る高木さんも控えめに手を叩く。
「すごいね、真柴くん」
「ああ、そうだな」
俺は高木さんが楽しそうならそれで十分だ。

「では最後はこのボールを使ってバレーボールをしたいと思います!」

「バレーボールだって、どうやるのかな?」
「さあ」

高木さんと二人、アシカショーを観覧していると、
「随分と楽しそうじゃない、良太」
背後からさくらの声がした。

振り返るとさくらが腕組みしながら後ろの席に腰を下ろしていた。

「おう、なんださくらじゃないか。お前もいたのか」
「ええいたわよ。あんたたちが来る前からね」
「だったら声かけろよ」
「二人の邪魔したら悪いと思ってね」
なんだそりゃ。っていうかアシカショーをそんな険しい顔して見るなよ。

「あ、ねぇさくらちゃん、ここに座る? 私ずれるから」
高木さんは自分の席を指差した。

「いいわ、あたしはここで。ここの方が見やすいし」
「そ、そう」

……なんだろう、空気がちょっとだけ重い気がする。

「みなさんありがとうございましたー!」

気付くとアシカショーは終わっていた。
アシカのバレーボール見てみたかったのに見逃してしまった。

「あ、じゃあ私はソフトクリームでも食べてくるから今度は二人で見て回ったらどう?」
と高木さんがいそいそと席から立ち上がる。

「ソフトクリームがあるのか、だったら俺も一緒に行くよ」
「えっ……?」
高木さんは戸惑った顔をしてみせた。

「ん、何どうかした?」
「う、ううん、別になんでもない」
首を振るがなんでもないって顔ではない。俺が一緒だと嫌なのかな?

するとさくらも立ち上がり、
「あたしもソフトクリームが食べたいと思ってたのよね。ちょうどいいからみんなで行きましょ」
さくらが先頭切って歩き出した。
俺と高木さんは後をついていく。だからなんでお前が仕切るんだ。

その道中高木さんが俺の耳元で、
「ねぇ、もしかしてだけどさくらちゃんて真柴くんのこと……」
言いかけてやめる。

「えっ何?」
「……ううん。さくらちゃんてきれいだよね」
「あー、うん、まあそうだな」
見た目はな。

「二人して何こそこそ話してるのよ? あたしの悪口だったら殺すわよ」
先を歩くさくらが振り向きざま言ってくる。
先輩に向かって怖いこと言うな。

「さくらちゃんがきれいだなぁって話してただけだよ」
と高木さんが笑顔で答える。

「ふーん……そう」
さくらは関心なさげに相槌を打つ。
こいつは自分の容姿が周りの目を引くということに気付いているのかいないのかわからないところがある。
さっきだって通り過ぎていった男連中がさくらを見ながら何度も振り返っていた。
まあ、さくらじゃなくて高木さんを見ていた可能性も充分にあるのだが。