昼飯を済ませると、
「ここからは自由時間にするから各自好きなようにしていいわよ」
とさくらが言った。
いつも思うが部長でもないのになぜこいつが仕切っているのだろう。

「六時にお土産屋さんに集合しましょ。それまでは……はい、解散っ」
ぱしんと手を叩いた。

「高橋さん、もう一回くらげ見に行かない?」
「……行く」
高木さんに誘われ高橋はまたくらげを見に行くようだ。
二人の仲は少しは縮まったのかな。

「うちホッキョクグマ見てくるな~」
花畑を舞う蝶のようにふわふわ~っと水族館の方へ戻る土屋さん。

「では僕もマグロの回遊を見てきたいと思います」
「ああ、わかった」
流星は荷物を半分ほど持って歩いて行った。

レジャーシートの上に残ったのは俺とさくら。

「お前はどうするんだ?」
「あんたこそどうするのよ?」
「俺か? どうするかなぁ……昼飯食べたばかりだしちょっと休んでから考えるかな」
「そう。あたしもちょっと休憩するわ」
「そっか」

周りには子ども連れとカップル。実に穏やかな日曜日だ。

何を話すでもなく俺たちはただぼーっとしているとふいに子どもが蹴ったボールがこっちに向かって飛んで来た。
それがよりによってさくらの顔面に当たる。

「いたっ!」

さくらの顔面に当たって弾かれたボールは俺の手の中に。

顔を押さえるさくら。

「ご、ごめんなさい」
駆け寄ってきた子どもが不安そうにさくらとボールを交互に見やる。

おいおい大丈夫か?
子ども相手にキレないだろうな。

するとさくらは優しい顔をして、
「今度からは気を付けるのよ」
「あ、うん。ごめんなさいお姉ちゃん」
俺からボールを奪い取るとそれを子どもに渡すさくら。礼を言いながら駆けていく子ども。
あんな顔も出来るんだなこいつ。

「何よ? まさか子ども相手に怒るとでも思った?」
「まあ、うん」
「バッカじゃないの、そんなことするわけないじゃない。あたしをなんだと思ってるのよ」
自分勝手で傍若無人で周りの目を気にしない奴。少なくともついさっきまではそう思っていた。

そういえば前に流星が言っていたな。「姉さんは誤解されやすい」と。
……誤解か。

「お前ってなんで文芸部に入ったんだ?」
「何よいきなり」
「いや、なんとなく」

さくらは俺から目をそらす。
「別に大した理由はないわよ。みどりと美帆が入ってほしそうだったから入っただけよ」
「そうなのか」
「……そういうあんたはなんで文芸部に入ったの?」
「なんでってお前が俺を文芸部に引き入れようとしたんだろうが」
「でも断ることだって出来たはずよ」
そう言われるとそうなのだが……。

「さあな。俺にもよくわからん」
「何よそれ……?」
あきれた様子のさくら。
本心を言えば、学校の勉強も出来るし何より意外と楽しそうだと思ったからなのだがこれを言うと負けのような気がするので言わないでおく。


周りの家族を眺めながら三十分くらい休んでいただろうか、さくらが、
「あたしそろそろ行くわ。せっかく来たんだから全部見て回ってくる」
と立ち上がり水族館の方へ向かっていった。

「……じゃあ俺も水族館に戻るかな」
俺はレジャーシートを片付けると三人分のリュックを担いだ。
弁当がなくなった分かなり軽い。

ここの水族館にはジュゴンもいるらしいからそいつを見に行ってみるか。
俺は足取り軽く広場をあとにした。