「本当にこんなのを文芸部の作品として載せるつもりか?」
「当り前じゃないの。なんのために苦労して書いたと思ってるのよ」
「でもなぁ、これはいくらなんでも……」
さくらが書き上げたのは主人公の幼なじみの手足が斬り落とされるシーンから始まる血みどろのスプラッター小説だった。

「え~、真柴くんこれ嫌いなん? うちは結構おもろいと思うけどな~」
「マジですか?」
土屋さんの感性を疑ってしまう。

「別に嫌いというわけではないんですけど校内新聞に載せる小説としてはどうなのかなって……」
「……わたしはいいと思う」
「ほら、みどりも美帆も褒めてくれてるじゃない」
「う~ん」
なんだ? 俺の感覚がおかしいのか?

「流星、あんたはどう思うのよ?」
「最高だよ、姉さん。先生たちもびっくりするよきっと」
別の意味でな。

「ほらね。これなら学校でも大絶賛の嵐よ、間違いないわ。ここからあたしの小説家デビューが決まったりしてね」
非難の嵐の間違いだろ。
生徒たちはともかく先生たちはこんなのを見たら文芸部を危険な部とみなすかもしれない。
ただでさえ悪い文芸部の評判が地に落ちてしまうかも……。
俺は奇異の目にこれ以上晒されるのはごめんだ。

……仕方ない。
「この小説は校内新聞に載せるには長すぎるから今回はやっぱり俺が書くことにする」
「は? なんでよ?」
「新聞部にもらったスペースを考えるとお前が書いた小説は長すぎるんだよ。だから代わりに俺が書いてやる」
「嫌よ、せっかく書いたのにっ」
「だったらこの小説はどこかの賞にでも応募しろよ。校内新聞なんかに載せるなんてもったいないぞ」
この際だから適当言ってやる。
「そこから小説家デビューだって夢じゃないぞ。それなのに校内新聞に載せたりなんかしたら誰かにパクられるかもしれない」

「そっか、盗作される心配があるのね」
と妙なところで納得するさくら。
「ああ」
お前の気色悪い小説なんぞ誰も盗作なんてするわけないだろ。

「じゃあ校内新聞に載せる用の小説はあんたに頼むわ。ちゃちゃっと書いちゃってちょうだい」
「任せとけ」
ちゃちゃっと書けたら小説家は苦労しないんだよ、と心の中でツッコミを入れていると、
「うちそろそろ帰ろかな~、なんや夜十時過ぎると補導されるって聞いたことあるし」
土屋さんがカバンを持って立ち上がった。
座っていて折れ目のついたスカートをぱんぱんと手で払う。

「……わたしも」
残っていた烏龍茶をリスのように目一杯口に含むと高橋も立ち上がった。

「姉さん、みなさんを玄関まで送ろうか」
「そうね」
流星を先頭に玄関まで行く。


「お邪魔しました。ほなまた明日な~」
「……お邪魔しました」
「じゃあな」

土屋さん、高橋に続いて玄関を出ようとした帰り際さくらが俺のカバンを強く引っ張った。
「うげっ!?」
俺は後ろに倒れそうになる。

「何すんだお前っ」
「良太、あんたあたしが超能力で部費の場所を探してた時美帆をデートに誘ってなかった?」
うーん、めざとい奴だ。

「いや、別にそんなんじゃない。高橋が水族館に行きたいって言ってただけだ」
「そうなの、ふーん……だったら今度の休み水族館に行きましょ、みんなでね」
「お、おう。構わないけど」

さくらは右手の小指を差し出してきた。
「約束よ」
「ああ」
俺も右手の小指を出し絡ませる。

「もし破ったりしたら何がなんでも針千本飲ますからね」
射殺すような鋭い目つきで俺を見ながら腕を振るさくら。
……水族館くらいで殺されてたまるか。